審査を通過した人しか入れない「日本いか連合

そこからは「頼まれもしないのに、ずっと解剖しています」と彼女。解剖の記録を自身のブログでも発表している。今までで一番、気持ちがブチ上がったイカは、自分で釣ってきたコウイカだという。

「コウイカは別名スミイカと言って、捕まえると必ず墨を吐くんです。だから、普通に釣ったものだと墨で真っ黒になってしまっていて、解剖しても中身がよくわからないんです。

でも自分で釣れば、墨を吐かないよう、釣り上げてからすぐに墨袋の根元を結束バンドで締めて、綺麗なまま持ち帰れます。それを解剖すると、まだ動いている内臓が見ることもできて、輝きも違ってました。その日の夜は、イカのことをずっと考えちゃって一睡もできませんでしたね」

釣りから解剖にシフトしても、イカを原因とする寝不足は解消されていないようだ。今はイカの解剖と並行して、イカの体内を精巧に再現したイカのぬいぐるみを制作している。構想から約4年をかけて完成させた力作だ。

▲彼女が制作したイカのぬいぐるみ

解剖しているからこその細部のこだわりはハンパ無く、全ての部位をバラバラにでき、それぞれをスナップボタンで留めることでイカの形になる。標本のようでありながら、フェルトで作られているからか温かみがあり、ほっこりとした可愛さもある。

ところで、これらの活動のきっかけにもなった『日本いか連合』とは、どんな集まりなのだろうか。

「代表が、いかいかよしかちゃんという女性で、彼女と先ほど話したイカしか描かない画家の宮内裕賀さんが、“イカ好きを集めてみよう”となり、各々の知り合いに招待状を出して第1回目のイカパーティーを開催したのがきっかけでした。

私はイカの情報を集めるなかで宮内さんの絵を知り、展示を見に行ったことで知り合いになっていたので、そのパーティーに呼んでいただいたんです。それで意気投合した人たちで『日本いか連合』が結成されたという経緯です。今は女性6名、男性2名の計8名。代表による厳しい審査を通過した人しか入れません」

解剖するときはハサミを使ってます

もともとブロガーとして多くの文章を世に出していた彼女だが、イカ好きであることは公にしていなかった。しかし、第1回イカパーティーを契機にイカ好きを公言し、“イカにモテモテの相関図”で大バズリし、フォロワーが一気に増えたという。また、イカ仲間が増えていく流れで、自身が編集長を務めるイカ情報が満載の同人誌『いか生活』を発行している。

「私の友達に家庭用製麺機を溺愛するあまり、それについての同人誌を出した人がいるんです。それまでの同人誌は薄いコピー誌のイメージでしたが、しっかり製本されたプロ顔負けの本で、“私もイカでこれを作りたい!”と思って。ちょうど『日本いか連合』が結成されて協力者も増えたので、“今しかない!”と思いましたね」

現在までに2冊を発行している。これまでのイカ取材のエピソードで印象に残っていることを聞くと、「ダイオウイカの解剖のレポート」という答えが返ってきた。深海に生息する巨大な姿をしたイカだ。

「島根県の水族館まで見に行き、大きさにも衝撃を受けましたが、プロの解剖を見て、かなり感化されました。マキリという漁師さんが使うミニサイズの包丁のようなものを使って、ザバッと切っていくんです。“すごい! ダイオウイカにメスは使わないんだ”など、いちいちショックを受けて(笑)。機会があったら、自分でもダイオウイカの解剖をしてみたいですね。ちなみに、私が解剖するときはハサミを使っています」

▲現在までに2冊を発行している同人雑誌『いか生活』

なんと、『日本いか連合』のメンバーで、ダイオウイカを食べる集まりが開かれたこともあるという。気になるお味は……。

「すごくマズかったです(笑)。人はマズいものを前にすると雄弁になりますね。食べた人はみんな、めちゃめちゃエンジョイして、いかにマズいかを語り合いながら、“ダイオウイカが自分の血肉になるんだ!”と異常なテンションで食べていました。

味は噛めば噛むほど塩味が出てくる感じで、ただの塩水ならいいんですが、濃くて苦くて喉に張り付くようなエグみがありました。ダイオウイカが浮力に使う、塩化アンモニウムという体内の物質に臭いがあるので、それもマズさの原因だと思います。事前に美味しくないと聞いてはいたんですが、やっぱり自分で食べて知れてよかったです」