サウジアラビアとイスラエルの接近を妨害?

ハマスは今回の攻撃の目的を、イスラエル側がパレスチナ住民を不当に虐待していることへの抵抗だとしている。たしかに近年、とくにヨルダン川西岸地区で、イスラエル当局による暴力的なパレスチナ住民弾圧が続いてきたのは事実である。

それ以外にも、今回のハマスの攻撃の動機がメディアではさまざまに語られているが、いずれもハマスがそう主張しているわけではなく、推測だということは留意すべきだろう。

▲イスラエル軍によるガザ地区に対する攻撃 出典:Palestinian News & Information Agency (Wafa) in contract with APAimages / Wikimedia Commons

そのひとつは、サウジアラビアとイスラエルが国交正常化交渉を進めているため、それを妨害するためだという説だ。

サウジアラビアは、もともと聖地である(東)エルサレムの奪還と、パレスチナ国家の創設という「アラブの大義」の側に立ち、パレスチナを支援してきたアラブの有力国だが、ライバル勢力のイランと対抗することに加え、国内経済のハイテク産業への脱皮を目指すこともあり、米国の仲介でイスラエルとの関係を深めてきた。

イスラエルは、2020年にアラブ首長国連邦やバーレーンなどと国交樹立しているが、これにはサウジアラビアの仲介・賛同があったとみられる。

ハマスからすれば、自分たちの頭越しにアラブ世界がイスラエルと手を結ぶことを意味する。それなら「自分たちは見捨てられかねない」との危機感を持つのは自然なことだ。これは政治的な動機としては、あり得る。ただし、ハマスはそれが目的だとは言っていない。

ただ、今回の奇襲がイスラエル軍のガザ住民への攻撃を誘発したことで、実際にサウジアラビアとイスラエルの接近は頓挫してしまった。一般住民が殺されたことで、アラブ・イスラム世界からすれば「イスラエルがアラブ人・イスラム教徒を殺している」という構図になったからだ。

実際、サウジアラビアはイスラエル批判を明確にしている。そういう意味ではハマスの政治的な得点にはなるが、その目的のためにハマスが、相手の反撃による住民の大きな犠牲を覚悟してリスキーな行動を選択したのかといえば、その具体的な根拠はない。

根拠の乏しい推測より明確な事実をみれば、「ハマスがもともとイスラエルへの抵抗を掲げてきたこと」と「2年という短い期間で強力な戦力を獲得したこと」が決定的だ。つまり、シンプルに対イスラエル攻撃を継続したということだ。