日本の労働者の賃金は30年間上がらなかったあいだに、大企業は輸出系企業を中心に、政府お墨付きの税制優遇で内部留保を溜めこみ、それでも余るぶんは外資系ファンドへと流れていった。情報戦略アナリスト・山岡鉄秀氏は、我々有権者が「国を守る」という意識で政治家や官僚へのチェックを続けるべきだと警鐘を鳴らす。

※本記事は、山岡鉄秀:著『シン・鎖国論 日本の消滅を防ぎ、真の独立国となるための緊急提言』(方丈社:刊)より一部を抜粋編集したものです。

大企業の実質的オーナーが外資系ファンド

日本人の給与レベルは、この30年で全く上がらなかったどころか、実質賃金では下がっています。1997年を100とすると2016年時点で89.7ポイント。なんと、1割以上の減少です。ちなみに同期間のアメリカは115.3、スウェーデンは138.4ポイントでした。

国の名目GDP(自国通貨建て)の比較でも、30年前に比べて日本が1.2倍だったのに対し、アメリカが4.2倍、ドイツは2.9倍に伸びていました。

なぜ、日本だけがこんなことになっているのか? 問題の基本構造は、はっきり見えているのではないでしょうか。

日本政府、いや財務省は、一般庶民や中小・零細企業の犠牲などは考慮せずに消費税率を上げ、バーターとして法人税などを減税したり、消費税を還付する仕組みで大企業を強力に支援してきたわけですが、その大企業のかなりの数が、すでに実質、日本の企業ではなくなってきているのです。大株主が外資系ファンドになってしまっているという意味です。

特に、法人税などの減税は、会計上、当期純利益を増やします。もちろん、株主配当は企業の経営環境を総合的に見て判断され、株主総会での承認を得なければいけないわけですが、企業の実質的オーナーである外資系ファンドが「当期利益を最大化するための経営判断をせよ」「設備投資よりも株主への還元を優先せよ」と圧力をかけてきたら、経営者は従わざるを得ません。

経常利益は増えても、従業員の給与を増やせないわけです。

日本国民である社員(従業員)が一生懸命、真面目に働いて企業のために貢献しても、そこで得られた利益が給与の増額として社員に還元されたり、企業の存続・発展のために必要な設備投資に使われたりすることはなく、剰余金の多くが外資系ファンドに株主配当として流出している仕組みを変えられない限り、日本人は今後ますます貧しくなります。これはまさに、ある種、植民地のような構造であるとも言えます。

▲大企業の実質的オーナーが外資系ファンド イメージ:metamorworks / PIXTA

GAFAの税逃れとアメリカのご都合主義

GAFAとは、言わずと知れた「グーグル・アップル・フェイスブック・アマゾン」のことです。ほとんどの人が、これらグローバルに展開するアメリカ企業に毎日お世話になっているのではないでしょうか。

あれだけ稼いでいるのだから利益も莫大で、納税額もスゴいのだろうと思っている方が多いかもしれません。彼らが日本にほとんど税金を納めていないことは、案外知られていないようです。

タックス・ヘイブンという言葉を聞いたことがあるかと思います。租税回避地、つまり税金が極端に安い国や地域のことです。

誰もがすぐに思い浮かべるのは、数年前に「パナマ文書」などでも話題になったパナマや、ケイマン諸島、バミューダ諸島などかもしれませんが、アイスランドやシンガポール、ルクセンブルク、オランダ、スイス、アイルランド、香港などもそうです。

グローバル企業が、こうしたところに本社や本拠地を置き、各国にある支社から利益を本社に吸い上げる形にしておけば、大幅に法人税を節税できます。GAFAも、この手法で世界各国に支払うべき税金を大幅に節約しています。

原則、日本でビジネスをして収益を上げている会社は、日本で法人税を払わなくてはいけません。しかし、東京国税局は2009年、法人税が適切に支払われていないとして、アマゾンに対して約140億円ほどの追徴課税処分を行いました。

アマゾンは、日本での販売業務を「アマゾンジャパン」と「アマゾンジャパン・ロジスティクス」の2社で主に行っているのですが、その2社はアマゾン本社から販売業務を委託されているだけで、利益のほとんどはアメリカ本社に吸い上げられているため、日本法人はほとんど利益を出していない形になっています。

東京国税局の言い分に対して、アマゾンの日本法人は「本社はアメリカに納税しているから二重課税になる」と意義を訴え、日米の二国間で協議した結果、結局、日本側が全面的に譲歩する形になりました。

これには日本とアメリカのあいだで結ばれている「租税条約」が深く関わっていて、条文上は平等なのだけれど、力関係が反映されることになり、実際に運用される場合には両国間の協議でほぼ決められるため、実質的には不平等条約だと言われています。

アマゾンの場合、クレジットの決済機能をアイルランドのダブリンに置いたり、ヨーロッパでの収益はルクセンブルクで処理するような仕組みにしています。いずれもタックス・ヘイブンであり、当然、世界各国から「税金を払ってくれ」と非難を浴びることになります。

それでも、グループ全体の納税額の半分は本社のあるアメリカに対して納めているため、合衆国政府は各国との二国間協議になった場合は、アマゾンをバックアップして保護するというわけです。GAFAによる節税で、世界各国は合計で24~30兆円ほどの税金を失っているという見方もあります。