吉本の黄金ルートには乗れないと思った

――憧れていたとかネタを参考にしたとか、好きだったコンビっていらっしゃるんですか?

楢原:芸風が近かったおぎやはぎさんとは、カブらないように意識していました。僕のボケ数を増やしたのも、その意識からですね。ちゃんと見てくれたら、めっちゃボケてるってわかると思うんですけど、どうしても“ダブルメガネ”ってだけで、おぎやはぎさんみたいだと言われ続けていたんです。

ボケもボケ方も、僕はそこで自分のスタイルが形成されました。おぎやはぎさんはニュアンスとか言い方だけで笑いを取れる方々ですけど、僕はそれをやっちゃダメだから、ちゃんと前に振ってボケることを大事にしてきました。

――関係性とかも含めて、初めて見たときは同級生なのかなと思ったくらいです。

出井:人間的には、ほんと真逆なんですよ。僕はポジティブだけど、楢原はネガティブだし。自己肯定感の高さとかも全然違います。僕は自己肯定感むちゃくちゃ高いんですけど、楢原は自己肯定感がものすごく低くて、自己評価と周りの評価のギャップにずっと苦しんでいるところがあって。彼はそういうタイプの人間だけど、僕はそれをまったく理解できないんです。

――面白いですね。

出井:人間的には全然違うんですけど、面白がることとか、嫌いなものとか、その辺の根底が同じなんですよね。最近、スタッフさんにもすごく言われるんです。

楢原:見てきたもの、好きなものとか嫌いなものが似てるみたいです。

――吉本興業を辞めて上京することになりますが、当時のことを改めて教えていただけますでしょうか。

楢原:そうですね。単純になじめなかったっていうのと、あとは若気の至りでしたね。いま思えば、“残ってもうちょっと頑張れよ”って思うんですけど。当時はそのストレスがイヤだったというか……劇場ランクのなかで生活するのがイヤで、本当になじめませんでした。ガマンしている先輩も後輩もいたんですけどね……。

出井:目立つために、手っ取り早く結果を得るために、漫才を続けていくために、標準語で引きの漫才を選んだので。浮いてしまうのはしょうがなかったと思います。劇場で頑張って、若い頃は番組のレポーターとかやりながら関西で名を上げて、賞を取って、ローカルで成功する、吉本の黄金ルートなんですけど……僕らの芸風だと回ってこないんじゃないかって。

――ヤーレンズさんのロケ、面白いと思って見ていますよ。

楢原:ありがとうございます(笑)。ロケをやらしてもらえているのはありがたいですね。やっていて楽しいです。

出井:でも、なんとなく……、僕ら二人で完結できたら一番楽しいよなあって、いつも思います。

楢原:僕らって、他の人にイジってもらって面白くなるタイプじゃないんですよ(笑)。

▲好きなものとか嫌いなものが似てるんです

ケイダッシュに入ったきっかけはトム・ブラウン

――勝手な推測なんですけど、NSCを出て大阪の劇場にいる以上は、平場などの先輩芸人とのやり取りなどで、キャラを剥がして面白くしてあげようとする文化があるような気がするんです。そのなかで、お二人が目指す芸風を確立していくのは大変だったんだろうなと……。

楢原:うーん、自分たちが面白いと思っていることでウケを取りにいけない、その思いが当時は毎日ありましたね。それをガマンして同じ芸風になっていければ、それはそれでいいんでしょうけど……。

――上京してケイダッシュステージに入りますが、他の事務所に入る選択肢もあったんでしょうか。

出井:ありましたね。いろいろなところで言っているんですが、ケイダッシュに入ったきっかけはトム・ブラウンさんなんです。審査員が現役高校生の賞レースが大阪であったんですけど、そのときにトム・ブラウンさんがむちゃくちゃスベってたんですよ(笑)。

でも、ネタが面白かったから携帯にメモしていて。東京で事務所を探すとなったときに、ケイダッシュステージの所属芸人を見たらトム・ブラウンの名前があって、“あ、この人たちがいるんだ、ちょっと面白いかも”と思って決めましたね。

――すぐになじめましたか?

楢原:すぐというか、感覚的には今もなじんでないんですけど…(笑)。

――え?!

楢原:いや、ホントに(笑)。それこそ吉本を見ていたので、 吉本芸人の関係性が“なじんでいる”と思っているんですよ。楽屋でも全員がそれぞれのノリを持っていて、楽屋でも一緒にいて、飲みにも一緒に行くみたいな関係性。

出井 そういう先輩らしい振る舞い、なぁーんにもやってないです。そもそもいらないですし……そういうノリも苦手で(笑)。

楢原:もう、そういう性格なんで(笑)。そういうノリが得意じゃないところも、僕らは近しいんですよね。

――ケイダッシュステージに入ってから印象に残っていることを教えてください。

楢原:そうですね……ケイダッシュもだいぶ変わったんですよ。昔は派手な人やバカが多くて(笑)、イヤなノリが蔓延していて苦手だったんです。 吉本とかで見るお笑いのノリじゃなくて、もうほんと、大学生の悪ふざけみたいなやつ。

僕は酒を飲まないのもあるし、そもそも社会人として居酒屋とかではしゃぐのが嫌いなんですよ。そしたら、トム・ブラウンさんも、そのノリがマジでわかんなかったみたいで。ヤーレンズが入ってくれてよかったって。

――前にインタビューさせていただいたときも、同じようなことをおっしゃってました。

楢原:芸人が笑ったとて、芸人が食わしてくれるわけじゃないですよね。お客さんがお金を払ってくれているわけなので、お客さんを喜ばせようっていう考えだったんですけど……それが当時のケイダッシュにはあんまりなくて。

出井:そういう人たちと明確に違うのがトム・ブラウンさんでした。彼らは目の前のお客さんを笑わせたい人だったんです。でも、目の前の人には伝わらなくて、袖の芸人にしか伝わってない。その状況が愛おしくないですか(笑)?