うれしかった『町中華で飲ろうぜ』スタッフの言葉

土壇場を何度も経験するなかで、逆流性食道炎になって体重が落ちたこともあった。俺も人並みに神経すり減るんだなって冗談ぽく話してくれたが、その頃のテレビやラジオでは“いつもの玉ちゃん”がそこにいた。玉袋はプライベートで何があろうと“プロの芸人”を貫き通したのだ。

「そのほうがいいじゃないですか。もともと病気自慢とか好きじゃないからさ。みんな花粉症でも腰痛でも自慢するじゃない? 別にそれ、威張れることじゃないからね(笑)。同情してほしくて言ってんのかわからないけど、俺はあまりそういうことは言わねえようにしていたんですよ。

この年つったって、まだ60歳手前のガキ(現在56歳)なんだけど、それなりのキャリアもあるなかで、どう痛みを見せないで、プロレスを見せるか? 怪我して包帯ぐるぐる巻きのレスラーよりも、本当は怪我してんだけど見せないレスラー。俺はそっちが好きなんだよね。……そんなこと言ってても、俺はこの本で随分と愚痴ってるんだけどさ(笑)​」

そうして土壇場で負った心の傷を癒してくれたのは、仕事やプライベートで出会った仲間たちだった。

「『町中華〜』のスタッフさんや、ラジオのスタッフは、“事務所と付き合っていたんじゃなくて、玉さんと仕事をしてきたから”って、後ろ盾がなくなった俺を使い続けてくれているんだよ。もしあの番組がなかったら、俺、いま何にもないと思うよ。それぐらいの出会いだったね。

もちろん、ほかの仕事仲間とか、スナックで知り合った仲間とか、手伝ってくれているマネージャーもそうだけど、そういったみんなの支えで傷は癒えていったよ」

仲間と酒を酌み交わすなかで、いろいろと教えてもらうこと、気づくこともあった。

「ツッパってた20代、30代の時代もあったんだけどさ、どう考えたってもう年なんだよ。みんなと飲んでるとさ“マウントとるのはやめたほうがいいよ”“玉ちゃんはイジられたほうがいい”って話になるわけですよ。そういうのって人から教わるよね。

レースから降りてるわけじゃねえんだけど、イジられて勝つみたいなさ。それをイチ早く、一番やってたのって、ダチョウ倶楽部の竜さん(上島竜兵さん)だと思うんだよね」

▲土壇場で負った傷を癒してくれた仲間たちへの感謝を口にした

玉袋筋太郎​​って名前で生きてみろ(笑)

彼の著書『美しく枯れる。』では、玉ちゃん流の人生後半の歩き方について書かれている。この本について宇多丸​​(RHYMESTER)と話す機会があったようだ。

「50歳で出した本『粋な男たち』も読んでくれた宇多丸さんが、“(玉袋が)50歳で言っていたことも確かにその通りだと思ったし、いま出ている本も確かにそうだと思うんだけどさ、俺たち54歳(宇多丸)と56歳(玉袋)じゃん。60~70歳の先輩が見たら、いまだに俺たちのこと鼻ったらしだと思うんだろうね”って言うんだよ。

俺も、いま自分で前の本を読むと“コイツ鼻ったらしだな(笑)”って思うわけよ。上には上がいるというかさ、永遠の鼻ったらしなんだよな」

年相応、身の丈にあった生き方、自分本来の生き方などの思いをこめた「アンチ・アンチエイジング」を提唱している玉袋。アンチ・アンチエイジングの筆頭は、現在88歳の毒蝮三太夫だという。

「俺は(映画『スター・ウォーズ』に出てくる)ジェダイの騎士​​じゃないかもしれないし、フォース(目に見えないエネルギー)を使えないかもしれない。だけど、やっぱりマムシさんみたいなフォースを出せる人になりたいんだよね。そうなるためには、やっぱり『アンチ・アンチエイジング』じゃないといけねえなと思うわけ」

まさしく『美しく枯れる。』というわけか。

「笑っちゃうのがさ、“『美しく枯れる。』でいくぞ!”って本を発売した次の日が、桜の開花宣言だったの。ズッコケたね。ある意味、持ってんなと思ったよ(笑)。

どんな人がこの本を読むかはわからないけど、(玉袋より年齢が)上の方には、背中を見せていただきたいし、下の方には“こいつ今こうなってんのか”と思ってくれたら、たぶん、いま負っている傷は浅くなると思うよ。

これを言っちゃおしまいなんだけど、一度『玉袋筋太郎』​​で生きてみろって思うんだよ。こんな十字架背負って生きているヤツいないんだから! 誰もそこを褒めてくれねえから、もう自分で褒めるよ(笑)」

▲自分のために乾杯!

現在56歳の玉袋。50代の折り返し地点にいるが、これまでの50代の道のりをどう感じているのか。最後に問いかけた。

「道中キツいね。もう向かい風。競輪で言うと、打鐘(ジャン)​​が鳴って、人生の2センター(3コーナーと4コーナーのあいだ)まで来てんのかな。ゴール前、差すかタレる(後退する)か……って感じだよ」

そうつぶやいて、玉袋はビールをひと飲みした。

(取材:浜瀬 将樹)


プロフィール
 
玉袋 筋太郎(たまぶくろ・すじたろう)
1967年、東京生まれ新宿育ち。高校卒業後、ビートたけしに弟子入りし、1987年に水道橋博士とお笑いコンビ「浅草キッド」を結成。芸能活動のかたわら、多数の本を手がけ、小説デビュー。社団法人「全日本スナック連盟」を立ち上げ、自ら会長を務める。主な著作に、『粋な男たち』(角川新書)、『スナックの歩き方』 (イースト新書Q)、『痛快無比!プロレス取調室~ゴールデンタイム・スーパースター編~』(毎日新聞出版)、『新宿スペースインベーダー 昭和少年凸凹伝』(新潮文庫)などがある。X(旧Twitter):@snack_tama、Instagram:@sunatamaradon