野球で一番大切なことは楽しむこと

スズキ氏は1日目の試合を終えたあと、日本の野球少年たちを集めて質問に答えていた。「二塁送球で気をつけることは?」といった技術的な面に加え、「バッティング時に心がけていることは?」といった精神面まで、子どもたちは積極的に質問をぶつけた。

そのなかで「野球をプレーするうえで意識することはなんですか?」という質問に対して、スズキ氏は“positive”という単語を何度も使って答えた。

「野球はゲームだ。まずは楽しもう。そして、野球は失敗ばかりのスポーツ。アウトになったりエラーをしたり……でもOKだ。ポジティブになって前を向こう。試合中に自分やチームメイトがミスしたら? ミスを責めるんじゃなく、“大丈夫、次はできるさ”とポジティブに考えよう。積極的にプレーしたのならミスをしてもいい。とにかくミスを恐れずに、常にポジティブでいることが大切だ」

実際にスズキ氏が見せた指導も、その言葉通りのもの。バッティング練習では、打球という結果ではなく、スイングそのものに対して「Good」「Beautiful」とポジティブな言葉をかけ続けた。

「打席では、自分のベストスイングをすることを考える。常にストライクがくることを考えて、打席では積極的になるんだ。守備も同じ、ミスを恐れていたらノーチャンスだ。積極的になれば何度も失敗をするが大丈夫。ボール球を振ってもいい。誰だってボール球を振るんだ。常にヒットを狙ってベストスイングをすることが大事なんだ。ミスを恐れるな」

聞いているのは、ほとんど英語がわからない小学生。しかし、できるだけ簡単な英語を使い、熱く語るスズキ氏の言葉は子どもたちに大いに響いたようだ。その言わんとしている内容を、訳される前から理解しているような素振りを見せる子もいた。

▲「Atta Boys」の子どもたちと記念撮影をするカート・スズキ氏

元メジャーリーガー、そして大谷選手ともプレーしていたスズキ氏が来る。そう言われても、どれだけすごいことなのか実感できない子どもたちは少なくなかったようだ。「本人よりも、親である私のほうが興奮していたくらいです」と話す保護者もいた。

ボールを受けてもらい、バッティング指導を受ける。そういう経験をしていくなかで、子どもたちは自然と元メジャーリーガーに惹かれていったようだ。

最初は慣れない外国人ということもあったが、緊張していた子どもたちも徐々にリラックスしていき、1日の最後にスズキ氏の話を真剣な表情で聞く彼らの眼差しには、緊張ではなく“憧れ”が見えるようになっていた。

(取材:Felix)