情を挟んでいたら甲子園で勝てない

実戦の戦い方に関しては、常に接戦を意識したプランニングや、試合後半で勝負することを意識している。川崎氏は、常に4-3や3-2といった接戦をイメージして試合に入る。相手との力量の差は関係なく、9イニングを戦うことを想定し、試合終盤の7〜9回をどうやって攻め、守り抜くかをシミュレーションしているのだ。

さらに、最初から「想定外」を意識し、試合に臨んでいる。最終的に1点でも上回ることを意識するため、想定すべきなのは大差ではなく僅差の試合なのだ。特に、好投手と相対したとき、僅差で勝つプランを再現することが求められる。

また、明豊といえば継投策のイメージが強いが、2番手以降の投手は、イニングの頭からの継投を意識しており、走者がいないベストな状態で100%の力を出せるように起用している。

加えて、継投策には「情」を挟まないように意識しているようだ。具体的には2017年夏の甲子園3回戦の神村学園戦。試合には勝ったが、継投策が失敗して苦しい試合になった。

▲継投策には「情」を挟まないように意識している イメージ: KOHEI 41 / PIXTA

あの試合で先発した佐藤楓馬には、8回に「このイニングで最後だから、力を振り絞って頑張れ」と伝令を飛ばし、佐藤はリードを守ったまま投げ切った。

しかし、「まだ投げたいです」と佐藤が主張してきたため、それに応えるように「わかった! じゃあ行け」と言って9回のマウンドに送り出した結果、9回に3点差を追いつかれてしまった。

この試合で、監督と選手、指導者と生徒とのあいだの「情」は大事だが、情に流されて勝てるほど甲子園は甘くないとも感じたのだろう。以降は、早めの継投を意識し、「実際に早いタイミングで投手を代えて後悔した、というイメージはあまりないんです」と話す。

一方、「逆に“遅れたな”と思って後悔したことは何度もあります。神村戦は迷って代えなかったことが失敗だったので」ともコメントするように、「迷ったらすぐに代える」という継投策になったのだ。

プロ野球の世界でも継投策は非常に難しい。高校野球の最適解を見つけ出して、早め早めの継投を意識したあと、川崎氏率いる明豊は甲子園でも勝てている。多くの高校が継投策や投手の複数人起用に苦しんでいるなかで、過去の経験が結果に結びついているのだろう。