ポール・スキーンズvs大谷翔平の名勝負数え歌

3人目は、ピッツバーグ・パイレーツに所属する先発右腕のポール・スキーンズ(22)。大学時代は、スティーブン・ストラスバーグ以来の怪物投手との呼び声も高く、2023年ドラフトでパイレーツから全体1位指名。今季開幕前のMLB公式有望株ランキングでは、投手で最高の全体3位にランクインした。

開幕はAAAで迎えたが、7試合に登板して防御率0.99という敵なしの状態で、5月に待望のメジャーデビュー。デビュー戦は5回途中3失点で勝ち負けがつかなかったものの、平均100.1mph(約161.1km/h)を記録するなど剛腕ぶりを見せつけ、2試合目の登板では、6回をノーヒットノーランの完璧な投球で初勝利を手にして見せた。

また、6月のドジャース戦では、今季の前半戦を代表する名シーンの一つも生まれた。オレンジ郡フラートンで生まれ育ったスキーンズは、少年時代からエンゼルスファンであり、15歳の頃には大谷翔平選手の本拠地デビュー登板を観戦したという。スキーンズ自身も二刀流に挑戦していた時期があるなど、憧れの存在でもある大谷との対決が実現したのだ。

第1打席は100mph超えの速球で三球三振とスキーンズに軍配が上がったが、第2打席ではフルカウントから大谷が100.1mphの速球をスタンドに運んでみせた。まだ短いキャリアとはいえ、スキーンズがプロ入り後、100mphの速球をHRにされたのはこれが初めて。今後のメジャーを代表することになる怪物投手と、メジャーの顔である大谷との対決は見ごたえのあるものだった。

そんな大谷とオールスターではチームメイトとなるスキーンズは、オールスターに選出されただけではなく先発投手にも任命された。MLB公式サイトのサラ・ラングス記者によると、新人投手がオールスター先発投手に選ばれるのは、1995年の野茂英雄さん以来で史上5人目の快挙。

前半戦最後の登板を7回ノーヒットノーランで締めくくり、今季成績は66.1回を投げて、防御率1.90、89奪三振、6勝無敗。5月のデビューだったため、規定投球回には届いていないが、オールスター先発の栄誉に相応しい投球内容であることは、誰もが認めるところだろう。

ファン・ソトの穴を埋めるジャクソン・メリル

最後に紹介するのは、新人野手で唯一選出されたパドレスに所属する外野手ジャクソン・メリル(21)。2021年ドラフトで、サンディエゴ・パドレスから1巡目全体27位指名されプロ入り。パドレスは近年、ドラフト1巡目指名選手の多くをトレードで放出しているが、メリルは今季開幕戦パドレスの選手としてメジャーデビューを果たした。

しかし驚きだったのが、そのポジション。本職のショートではなく、なんとセンターとして開幕を迎えたのだ。ショートとしてドラフトされ、プロ入り後、最初の2シーズンも他のポジションを守ったことがなかったメリルは、昨季終盤にマイナーでファーストやセカンド、レフトなど数試合を経験。これはユーティリティ選手としてメジャー昇格の可能性が検討されていたからだ。

しかし、オフシーズンにフアン・ソト、トレント・グリシャムという2人のレギュラー外野手をトレードで放出したパドレスは、一時、ロースターに外野手が2人しか存在しない状態になるなど、外野手の枯渇状態に陥っていた。

そこで、新たなセンターとして白羽の矢が立ったのがメリル。昨季経験したレフトではなく、センターというところも驚きだったが、スプリングトレーニングでは無難にこなし、開幕してからも順調なパフォーマンスでリーグ有数の守備力を持つ外野手へと成長したのだから、さらに驚きだ。

もちろん、守備だけが評価されてオールスターに選ばれたわけではない。打撃ではナ・リーグの新人としてはカブスのマイケル・ブッシュと並んで、最多の12本塁打を記録。最初の2か月は高い評価を受けていたコンタクト能力は発揮しながらも、長打の少なさが目立っていたが、6月に入ると一気に9本塁打を放つ大ブレイクで、月間最優秀新人賞を受賞した。

フリースインガー気味でほとんど四球を選ばないなど、まだまだ改善すべき点はあるものの、ナ・リーグの新人野手のなかではブッシュと双璧を成す存在。今季成績は94試合に出場し打率.281、12本塁打、46打点、OPS.754。前述の2選手ら含め同じリーグに素晴らしい活躍を見せているライバルは多いが、6月の活躍ぶりが本物ならば、新人王の有力候補の1人と考えていいだろう。

彼らの活躍とオールスター出場により、野茂英雄さんや大谷翔平選手があらためて評価されるのは、日本人の野球ファンにとっても光栄だ。願わくば、オールスターゲームでもさらなる輝きを放ち、MLBの魅力を世界中に発信することを信じて、年に一度の祭典を楽しみたい。