フランスで開催されているパリオリンピック。開催国のフランスは、アニメや和食などを通じて日本文化に親しんでいる人が多い国と言われており、現地で応援している観客を見ると、日本人以外でも日の丸を振って、日本人選手を応援している人がたくさんいます。そんなフランス人のなかには、「ヤンキー」に興味を持っている人たちがいるようです。元国連職員で海外事情に明るい谷本真由美氏に聞きました。

※本記事は、谷本真由美:著『世界のニュースを日本人は何も知らない4 -前代未聞の事態に揺らぐ価値観-』(ワニブックスPLUS新書:刊)より一部を抜粋編集したものです。

『東京卍リベンジャーズ』で人気になったヤンキー文化

フランスでは2019年から2022年のあいだに漫画の売り上げが2倍となり、「GfK」によれば「出版業界で最もダイナミックなジャンル」と言われています。2021年の前半だけで、漫画の売り上げは15%増加し、他のすべての分野の書籍は3%から10%のマイナスだったのと比べて驚異的な増加です。

このような漫画人気のなかで、最も人気がある作品のひとつが『東京卍リベンジャーズ』です。この作品は20代半ばの主人公が、ある事件から12年前にタイムトリップし、中身は大人のままで当時のヤンキーが抗争に明け暮れた様子を描いたものです。

1980年代のヤンキー漫画に親しんだ世代には懐かしい感じもするのですが、現代風のスタイルにタイムトリップを絡ませたストーリーもあり、ネオヤンキーという感じの内容です。この作品の人気は海外でのヤンキー文化の認知度向上と、ヤンキーというものがファッションのスタイルとして確立される流れを後押ししています。

2022年夏にフランスで開催された「Japan Expo」でも『東京卍リベンジャーズ』のコスプレが大人気で、会場には特攻服があふれました。イギリスやイタリアでも人気で、「Amazon」でもかなり質の高い『東京卍リベンジャーズ』のコスプレ衣装が手に入ります。コスプレ用に木刀やヤンキー仕様のスウェット、特攻服も入手できます。

コスプレイヤーのなかでもヤンキー、不良ジャンルが人気です。特攻服には「天上天下唯我独尊」と書いてあります。これ以前にも、日本の「Furyo」(不良)スタイルと「Yankii」(ヤンキー、YanKeeとは書かない)スタイルは、思い切り改造された族車、旧車などを愛する界隈で、ある意味ニッチな人気がありました。

ジャパンにはヤンキーというクールな人々が、クールなファッションとライフスタイルを持っている。そう一般的に認知されるようになったのは『東京卍リベンジャーズ』の影響が強いというほかありません。

ルールにとらわれない自由でおしゃれなスタイル

とはいえ、日本と異なるのは、あくまでも「Furyo」と「Yankii」は「新しいファッション」のスタイルであり、「日本発祥のクールなもの」という扱いで、流行に敏感な最先端の人々が超注目する分野です。

たとえば、ファッション誌の『Fashion Magazine24』は「Hanchi」というブランドを訪問した2020年10月5日の記事で、「Yankii」を取り上げています。

この記事では「Yankii」について以下のように定義しています。

「Yankiiとは何を定義するのか? 日本では『Yankii』という言葉は、社会規範の硬直さを拒否する行動の意味である。階級の定義に対して反抗する若者のサブカルチャーであった」

さらに「Pinterest」には「Yankii」「Furyo」「Bosozoku」の写真をコレクションする海外の若い人がかなりいるのですが、彼らは現地のギャングスタではなく、比較的お金があって、ファッションに敏感なオサレ系意識が高い層です。

欧米だけはなく、タイなどの東南アジアでも、比較的裕福な若い人が、意識高いオシャレとしてヤンキーや暴走族のコスプレに取り組んでいます。

▲「新しいファッション」と受け止められた日本のヤンキー文化 写真:killer99 / PIXTA

あくまで「ヤンキー」「不良」「暴走族」は、「日本発で権威に挑戦し、ルールにとらわれない自由でおしゃれなスタイル」という感覚なのです。

しかし、なぜ「ヤンキー」「不良」「暴走族」が、ヨーロッパでは特にフランスで大人気となり海外で受けるのか――これらは他の国には存在しない日本的な「文化」であるからです。そして、他の国にも不良文化や不良ファッションがあります。

欧米の「不良」は、イコール本格的な犯罪者であり、窃盗や麻薬取引が本業だったりします。ところが日本のマンガやアニメに登場する「不良」や「ヤンキー」はあくまでも“ツッパリ”であり、窃盗や殺人を繰り返す欧米の犯罪者とは一線を画しているのです。