新型コロナも落ち着いたことで、さまざまな国からの外国人観光客が日本各地へと訪れています。紳士や淑女で常に控えめな国民性と思われがちなイギリス人。しかし、最近の実態はどうやら違うようです。イギリスで大きな顔をしている「新興の成金層」、世界各国から集まった彼らのマウンティング合戦で、日本への旅行が“勝利の切り札”となる理由を、SNSでは「May_Roma」(めいろま)として活動し、元国連職員で海外事情に明るい谷本真由美氏が解説します。

※本記事は、谷本真由美:著『世界のニュースを日本人は何も知らない3 -大変革期にやりたい放題の海外事情-』(ワニブックスPLUS新書:刊)より一部を抜粋編集したものです。

新興成金層による仁義なき階級マウンティング

皆さんが想像するイギリスは「紳士と淑女で落ち着いていて常に控えめな国民性」というイメージではないでしょうか。

ところが、ここ最近のイギリス人の実態は大違いです。驚くべきことにイギリス、特に都会では「新興の成金層」が威張っています。彼らの正体とは、イギリスを支配するヤンキー層に近い。これらの人々にお金があるとすごく厄介です。以下に、新興の成金層の特徴をあげておきましょう。

もともとそこに住んでいるイギリス人は、スコットランド人やアイルランド人、ウェールズ人など大英帝国を構成する各地の人々だけではありません。

欧州大陸からやってきた人々、アメリカ人、オーストラリア人、インドやパキスタン、バングラデシュなど南アジアの旧植民地、ドバイやシリア、サウジアラビアなどの中東、キルギス、カザフスタン、ウズベキスタン、アフガニスタン、トルコなどの中央アジア、ロシアやハンガリー、リトアニアなど旧共産圏……などなど。

切りがないので、この辺で省略します。

要するに、イギリスには全世界から人間が集まっているのです。新興の成金層のスタイルやマウンティングのポイントは、出身地域によって微妙に異なっています。それに各自の出身地の成金的な要素が混ざり合って、新興の成金層は確立。そして世界各国の成金同士が日々、(しれつ)な“異種格闘技戦”をやっている状態です。

ここ20年から30年ほどのあいだに、イギリスには世界各国から情報通信革命や経済改革、共産主義の崩壊などで富を手にしてしまった人々が集まってきました。

それはなぜかというと、商売がやりやすく資産保全を容易にしやすいからです。全世界から、いわゆる勝ち組の人々が集まってきているので、品格うんぬんよりも、とにかくお金持ちが偉いという価値観が全体を支配しているのです。

イギリスにやってきた彼らの子どもが通う学校でも、マウンティングの火花は大きく炸裂します。学校には商売仲間や親戚とは異なり、まったく違う属性の人々が集います。そして、他の保護者に対し「自分はどれほどスゴイか」という凄まじいマウンティングをしてしまうのです。

なんといっても彼らは、外国に住んでいるという負い目があります。支配層である白人のイングランド人ではないので「地元民にバカにされてなるものか」という根性が、こうしたマウンティングの背景にあるのでしょう。

彼らがまずマウンティングの中心とするものが装飾品です。なぜか新興成金の人々に共通するのは、日本で20年から30年前に流行っていたブランド品が大好きなこと。かつて、安室奈美恵さんがSAMさんとともに身につけていたカルティエのラブブレスレットを着けている人が、ドヤ顔で子どもの送り迎えをする。

腕には光り輝く金色の巨大なロレックス。鞄は同じく日本で30年ほど前に流行っていた、グッチのロゴが入りまくった昔懐かしいバッグやシャネルの高級バッグ。日本では中古ブランド品店か質屋でしか見かけることがないでしょう。

服はヒョウ柄やゴールドが全身にあしらわれた36万円のスウェット。サングラスはなぜか判で押したようにトップガンスタイルで、アメリカ大統領のバイデンさんが愛用している例のティアドロップ型です。日本ではほとんど見かけることがなくなってしまいましたが、イギリスの成金層のあいだではあれが大人気です。

盗難などのリスクがあっても大型車に乗る人たち

そして極めつけがマイカーです。彼らはとにかく大きな車が大好き。大きいというだけで他人を圧倒できるので、とにかく大きさを誇示するのは必須中の必須です。

主にランドローバーやポルシェのSUV(スポーツユーティリティビークル)を愛用していますが、イギリスが異常に古い国で道が狭く、駐車場や路上で上手に運転できなくて困っている姿をよく見かけます。

さらに、ここ10年間で急激に豊かになった彼らがイギリスに来てから運転を始めたためか、あちこちで車をこすりまくって常に傷だらけです。

ナンバープレートは陸運局に申請してカスタマイズしたもので、なぜか自分の名前や家族の名前を入れ、周りをデコレーションしてキラキラ光るようにしてあります。

交通違反をしたら一発でバレるだろうという気がするのですが、それでも彼らはナンバープレートのカスタム化をやめません。日本ではバブルの最盛期に似たようなデコレーションが流行っていた気がします。

このようなオリジナルのマイカーを、家の前に3台も4台も並べるのがオシャレとされています。こういった車はアフリカやロシアで高く売れるので頻繁に盗まれます。高級車なので車上荒らしにも狙われ、年がら年中ドアが破壊されている。

ところが、彼らは車を見せびらかすため家の前に置くので、車庫に入れる気がありません。多大なるセキュリティリスクがあるのに、こういう車種を選ぶのですね。身の安全よりもマウンティングのほうが優先なのです。

▲盗難などのリスクがあっても大型車に乗る人たち イメージ:zenstock / PIXTA