自分が心地よい範囲で発信を続けることが大切

ルスさんがYoutubeでの発信を始めたのは、メキシコに移住してから2年目の2021年。もともとあった「日本人向けにメキシコ暮らしのリアルを共有したい」という思いに、副業が禁止だった保育士の仕事の退職とも重なって、機運が高まった。

「移住前に想像していたメキシコって、砂漠一面でみんなマラカスを持っているようなイメージだったのですが、実際は想像より都会で、おしゃれな人もたくさんいました。住んでみてカルチャーショックをいっぱい受けましたし、日本とは景色も全然違う。たくさん刺激を受けたので、それを伝えたいなって」

SNSでの発信で大切にしているのは、完璧を求めすぎず、自分が心地よく続けられること。ありのままの姿を見せてくれるルスさんだからこそ、多くの視聴者から共感を得るのだろう。

▲テキストアパンという街の景色

「TikTokは、全部アフレコでナレーションを追加していて、動画を撮っている時も、プライベートを存分に楽しむようにしています。YouTubeは、『今日は撮るぞ』と決めて撮ることもありますが、自然体でいることを意識しています。

私は面倒くさくなると、なかなか続かないタイプ。なので、全部字幕を入れるとかはあまりしません。以前、『多分編集が面倒になって途中で終わったでしょ』みたいなコメントをもらったことがありますが、その通りです(笑)自分が辛くならない範囲でYouTubeを続けています」

現在はYouTubeの登録者数が12万人を超えるルスさんのチャンネルも、今年の5月までは6000人程度。爆発的にフォロワーが増えたきっかけは、ゲーム実況を中心に活動しているYouTuber・加藤純一さんが、ルスさんの動画を視聴したことだった。

「実はモチベーションが保てず8か月くらい動画を更新していなかった時期に、突然コメントが増え始めたんです。加藤純一さんが、配信中に私のメキシコの治安対策動画を見てくださって、その視聴者の方が私の動画にコメントしてくださっているようでした。

みなさん「メキシコ=危ない」と思っているから、私が更新していないことを受けて、“大丈夫? 生きてる?”って、心配してくれて。安否確認の意味でも動画配信を再開したところ、再生数が伸びるようになったんです」

危なくても住み続けたい気ままでゆったりとした空気感

犯罪組織の抗争や警察組織との衝突が発生しており、殺人や誘拐が横行しているエリアもあるゆえに危険な国と思われがちなメキシコ。動画のなかでも「生首が転がっている地域がある」、「マフィアの家が宝くじの景品になった」など、とんでもないエピソードが度々登場するが、それでもメキシコに5年住み続けたのは「居心地が良かった」からだ。

「メキシコって、急いでいる人がいないんです。日本に帰ってきて思うのが、みんな急いでいるということ。例えば、飛行機が着いたらすぐに立ち上がって準備し始めるし、お会計ではおつりを財布に入れるのさえも急かされてるような気がする。効率を重視して、用事があるわけでもないのに、常に急いでいるイメージなんですよね。

一方でメキシコでは、レジで『今おつりがないからちょっと待ってて』と15分くらい待たされるし、バスや地下鉄には時刻表が存在しません。この気ままでゆったりとした空気感が私には合っていましたし、そのおかげでマイペースに生きられました」

▲メキシコのパン屋さん。日本で見かけない種類もたくさん

そういった国民性も関連してか、ルスさんに対しウェルカムな対応をしてくれるメキシコ人が多かったという。

「私が外国人だから好奇心の対象になっていたところもあると思いますが、差別も全くなく、いつでも歓迎してくれました。アジア人ってすごい珍しがられるんですよね。

地下鉄に乗っていても、『どこ出身なの?』とか、『名前を日本語で書いてみて』とか話しかけられることも。なので私も知らない人にも気軽に聞いたり、ちょっとした世間話をしたりできるようになりました」

文化の違いを肌で感じるうちに、マインド面で大きな変化もあった。

「『ここまで言わないと伝わらないんだ』とカルチャーショックを受けることが多々あり、これまでより主張するようになりました。”何も言わない=OK”と思われちゃうので、仕事でもプライベートでも“私はこう”と境界線をしっかり持つのが大事だなと。

また、日本の常識をメキシコ人に押し付けても通用しないし、私もメキシコ人の常識を理解するのが難しい場面もたくさんありました。人を変えたり、コントロールしたりする考え方をやめようと思うようになりましたね」