そしてプロレス人生が問われる一戦へ

結果として試合順はセミファイナルとなったが、それでもタッグ王座挑戦を決めた自分と小林さんは、過去2回に負けないくらいに気合い満々で、2017年の両国大会に臨もうとしていた。

なぜなら両国で行われるタッグ選手権は、通常ルールで争われるからこそ、デスマッチファイターとして闘ってきた、自分と小林さんのプロレス人生が問われる一戦だったからだ。

▲そしてプロレス人生が問われる一戦へ

両国大会でのタッグ選手権挑戦が決まった時、自分と小林さんの王座奪取を予想した人は、極めて少数派だったはずである。

無理もあるまい。王者チームの大介&岡林組は、この前年には全日本プロレスの世界タッグ王座も奪取しており、プロレス大賞のベストタッグチーム賞を2度受賞。誰疑うことのない日本屈指のタッグチームだ。

対する自分と小林さんは、ベルトに挑戦するのは初めてで、挑戦者決定戦で二丁拳銃に勝った以外は、実績らしい実績もないコンビだった。しかもタイトルマッチは通常ルールで行われる。

普通に考えれば自分たちの勝ち目は、極めて薄い試合だった。だからこそ自分と小林さんは、大介と岡林に勝たねばならなかった。自分たちが闘おうとしていたのは、デスマッチファイターが通常ルールで闘えば、ストロングBJの選手には勝てないという、常識でもあったからだ。

一方、挑戦を受ける大介と岡林にとっては、通常ルールだからこそ絶対に負けられない試合だった。そういう意味では両国のタッグ選手権は、常識を打ち壊そうとする自分と小林さんが、常識を守ろうとする大介と岡林に挑む闘いでもあった。

しかし極めて薄いとはいえ、決して自分たちに勝ち目が皆無の試合ではなかった。二丁拳銃との挑戦者決定戦でフィニッシュになった、ドラゴンスプラッシュとバカチンガーエルボーの連打さえ決めることができれば、相手が大介や岡林でもフォールを奪うことは可能だ。

ただ問題はどうやって、そこまで持ち込むことができるか?

自分と小林さんが考え抜いた末に出した答えは、石に噛り付いてでも耐え抜くしかない! だった。いささか具体性には欠ける作戦ではあったが、その大前提を抜きにしての、自分たちの勝利はあり得なかった。

限界を越えて耐え抜き闘った結果…

実際、両国でのタッグ選手権は、自分たちが石に噛り付くように、耐え続ける展開が続いた。何しろ相手は人並み外れたパワーの持ち主の大介と岡林。165キロの小林さんが何度となく持ち上げられては、マットに叩きつけられてしまう。いわんや95キロの自分など、ほとんどオモチャ扱いだ。

それでも誤爆を誘って反撃に転じたが、攻め切ることができず再び主導権を奪われてしまう。集中攻撃を受ける小林さんを救うべく、カットに入った自分のバックを大介が奪う。ジャーマンが来ると思って踏ん張ると、自分のバックを奪った大介を、さらに岡林がジャーマンで放り投げた。

眉山!

いわゆる二段式のジャーマン・スープレックス。この合体攻撃を初めて見た時から、絶対に食らいたくないと思ってきたが、とうとう自分が餌食になってしまった。あり得ない勢いと高さで叩きつけられた自分は、そのまま場外に転がり落ちた。

どうにか起き上がった時に目に入ったのは、小林さんにトドメを刺すべくコーナーに上がる岡林の姿。とっさに近くにあった椅子を投げて阻止する。こういう攻撃はできるだけ使いたくなかったが、あそこで椅子を投げなければ、岡林のゴーレム・スプラッシュが決まって、試合は終わっていただろう。

すぐにリングに戻ってコーナー上の岡林に、2人がかりの雪崩式ブレーンバスター。さらに大介も2人がかりで攻め込んで、場外に落とすと自分がプランチャで追い打ち。1対1になったリング上では、小林さんが岡林に一気にラッシュをかける。

勝負に出た小林さんはコーナーからのバカチンガーエルボーを投下。これは返されてしまったが、直後に自分がドラゴンスプラッシュ。すぐに立ち上がってリングに入ろうとする大介を押さえる。そして小林さんが再度のバカチンガーエルボー!

必死に大介を押さえる自分の耳に、レフェリーの手がマットを3度叩く音が聞こえた。

勝った!

日本屈指のタッグチームである大介と岡林のコンビに、自分と小林さんが勝ってベルトを奪った。まさに石に噛り付いて耐え抜いた末の勝利だった。

前の年に星野が自分から挙げたのが、5回に一度の勝利だったとすれば、この日の自分と小林さんの勝利は10回に一度、いや100回に一度の勝利だったかもしれない。それくらいに大介と岡林は強かった。

しかし、そんな大介と岡林に勝つために、自分と小林さんは必死に考え、限界を越えて耐え抜き、死に物狂いで闘った。その結果として100回に一度の勝利を掴み取ったのだ。

自分も小林さんもこの試合の時点で41歳。それでも、まだまだこうして必死になることができる。不可能と思われていることを、実現することもできる。ともあれ久しぶりに巻いたタッグのベルトを守りながら、7度目のデスマッチ王座返り咲きを狙おう。

落ち着いてしまうのは、まだまだ先のことになりそうだ。何しろ自分の目の前には、やりたいこと、やらねばならないことが山のようにあるのだから。

▲落ち着いてしまうのは、まだまだ先のことになりそうだ