世の中には、しばしば「不可能を実現」させる人がいます。大日本プロレスの看板レスラー・伊東竜二選手。彼は“勝利はありえない”と思われた相手を前に、いかにして「不可能を実現」させることに成功したのか? 「デスマッチファイター」として重い十字架を背負って生きてきた男が、数々の闘いを経て得たことについて語ってもらった。

※本記事は、伊東竜二著『デスマッチドラゴンは死なない』(ワニブックス刊)より、一部を抜粋編集したものです。

名なしコンビ挑んだ「挑戦者チーム決定戦」

二丁拳銃がツインタワーズにタッグ王座を奪われた2014年以降、タッグ戦線はずっとストロングBJのチームで争われてきた。この間に二丁拳銃や高橋&植木組が挑戦したが、いずれもベルトを奪うことはできなかった。

ならば自分と(アブドーラ)小林さんでベルトをデスマッチに取り戻し、久しぶりにタッグ王座を血で染めてやろうというのが理由の一つ。

そしてもう一つはストロングBJを代表する大介&岡林組に、ベテランのデスマッチファイターである、自分と小林さんが挑むことで、新たな大日本の可能性を切り拓いてみたかったのだ。

さらに個人的には、前年に大介とデスマッチで対戦した後から、今度は通常ルールで大介と闘いたいという思いを抱いていた。小林さんも前年の8月に、岡林と通常ルールでの一騎打ちを行って以来、ストロングBJとの直接対決に対して、ずっと思うところがあったようだ。

そんな自分と小林さんに待ったをかけたのが、自分たちの2試合前の試合後に、タッグ王座挑戦を表明していた、宮本とイサミの二丁拳銃。王者返り咲きをずっと狙っていた彼らにしてみれば、降って湧いたような自分たちの挑戦アピールを、黙って見過ごすことができないのも当然だった。

かくして自分と小林さんは、両国大会でのタッグ王座挑戦権を賭けて、6月28日の後楽園大会で二丁拳銃と対戦。タイトルマッチ本番は通常ルールで行われるが、挑戦者チーム決定戦は敢えて五寸釘ボード&蛍光灯デスマッチで争った。

なぜならこの試合は、デスマッチの代表チームを決める一戦でもあったからだ。

試合は自分と小林さんの劣勢が続いたが、それは試合前から予想していたことだった。幾多のタイトルマッチを経験してきた二丁拳銃に対して、自分と小林さんはチーム名さえない名なしコンビ。

連係では明らかに劣る上に、デスマッチでは2人がかりの攻撃も許される。小林さんが攻められ続け、ようやく交代したと思ったら、今度は自分が集中攻撃を浴びる展開が続く。

それでも自分たちには勝算があった。まず、自分と小林さんは6人タッグも含めれば、チームを組んだ経験は二丁拳銃に負けないくらいに積み重ねていた。つまり多くの人が思っていたほど、急造のにわかチームではなかったのだ。

しかも、自分たちは二丁拳銃というチームの攻撃パターンを知っているが、彼らはコンビとしての自分たちをよく知らなかった。そして自分と小林さんには、連打で決めることができれば、確実に勝利につなぐことができる必殺の連係攻撃があった。

コーナーからのダイビング・バカチンガーエルボー

試合開始から15分過ぎ、宮本の攻撃を切り返した小林さんが、五寸釘ボードへの回転エビ固めを決める。ここから一気に勝負に出た。イサミのカットを阻みながら、宮本に集中攻撃を浴びせると、まずは自分がドラゴンスプラッシュを投下。

しかし敢えてフォールには行かない。続いて間髪入れずに小林さんが、コーナーからのダイビング・バカチンガーエルボーを落とす。さすがの宮本もこの強烈な連打は、肩を上げることはできなかった。

コーナーからのダイビング・バカチンガーエルボー イメージ:PIXTA

解説するとドラゴンスプラッシュが先だったのは、自分の方がコーナーに登るスピードが速いから。この連続攻撃は間髪入れず決めることで、より大きなダメージを与えることができる。だから自分はドラゴンスプラッシュの後に、フォールに行かなかったのだ。

この勝利によって自分と小林さんは、両国大会でのタッグ王座挑戦権を勝ち取った。

ちなみにこの年の両国メインを決めるファン投票は、前年までのデスマッチとストロングヘビーに、タッグ王座と横浜ショッピングストリート6人タッグ王座も対象となっていた。この大会の休憩時間に発表された結果は、高橋対植木のデスマッチ選手権が1位で、自分たちが挑戦するタッグ選手権は2位。

どうせなら2年連続のメインに立ちたい気持ちもあったが、若い高橋と植木のデスマッチ選手権が、多くの期待を集めたのは、大日本にとっては喜ばしいことだった。