『劇場版モノノ怪 第二章 火鼠』が3月14日(金)に公開される。同作は三章構成の『劇場版モノノ怪』シリーズの最新作で、モノノ怪・唐傘との壮絶な戦いからまもなくして起こった人体発火事件を発端に、天子の寵愛を受ける御中臈・フキをめぐり錯綜する思惑や大奥に潜む闇が描かれる。

今回は、町人出身だが天子に見初められて御中臈となり、寵愛を一身に受けている時田フキ役の日笠陽子と大奥の最高職位・御年寄として厳格な采配を振るう大友ボタン役の戸松遥にインタビューを行った。二人が考える『劇場版モノノ怪』の魅力や役作りへのこだわりなどを語ってもらった。

▲戸松遥(左)&日笠陽子(右)【ニュースクランチインタビュー】

『モノノ怪』は引力を感じさせる作品

――お二人は第一章から参加されています。改めて『劇場版モノノ怪』の魅力についてどう思われますか?

日笠陽子(以下、日笠):実は、この作品に関わるまで『モノノ怪』という作品を見たことがなかったのですが、独特な色使いや雰囲気から、何かしらの強い感覚が伝わってきました。逆に言うと、視覚的に見ただけでも、その世界に引き込まれるような感覚があって。実際にこの作品に関わってみて、その感覚は間違っていなかったと感じています。恐るべきパワーを持っているというか、引力を感じさせる作品だと思います。

――どういったところに引力を感じましたか?

日笠:主題や描きたいものがたくさんあって、ほかにもいろんなものが絡み合っていて、どれが主題なのかが見えにくくなってしまう。そんな渦巻く感じが、やっぱり恐ろしいと感じます。まるで何かが隠されているかのようで、はっきり言わない部分が逆に怖さを増しているんですね。監督の脳内はどうなっているんだろうみたいな(笑)。こんな世界を描けるという創作に対する尊敬と、同時にそれを感じさせる恐れがあります。

戸松遥(以下、戸松):元々、この作品自体が2007年にノイタミナで放送されていたので、その存在はずっと知っていたのですが、そこから17年経って自分がキャストとして関わることになって、改めて『モノノ怪』という作品を聞いたとき、最初に感じたのは、やっぱりこの作品ならではの色使いやビジュアルの独特さでしたね。鮮やかなイメージ。

でも実際に関わらせていただいたら、ストーリーが深いんですよ。掘り下げようと思えばいくらでも掘り下げられる内容になっていて、人間の心理とか心の奥底にあるダークな部分、少し汚い生々しい人間の側面が描かれている。そのギャップに魅了されてしまいました。

――お二人が演じられているキャラクターについてはどう思いましたか?

日笠:フキは大奥の女性の一人なんですけど、寵愛を受けているので無事に子を妊娠することができた人物です。自分の生まれてくる子どもが武器になってしまうという大奥の世界観の中で、実際に子どもを宿したときに彼女がその子どもを本当の子どもだと思うのか、あるいは武器や物だと思うのか、その葛藤にずっと揺れ動いています。

彼女がボタンとさまざまな衝突を繰り広げる中で、その答えにたどり着くまでの過程が見どころのひとつなのかなと思います。

――その中でもボタンと言い合うシーンは印象的でした。

日笠:やっぱり最初に印象に残っているのはそこですよね。それがまさに女性の強さだと思います。男というものを取り合う女が、母になることで変わっていく、そういった印象に近いのかもしれません。

戸松:ボタンは、この世界の中ではかなり珍しいタイプで、すごく正義感が強く、正論を貫く人です。大奥の女性たちは、たいてい腹黒さやしたたかさを持っていて、男性を取り合うバトルが繰り広げられていますが、ボタンはその中でも一歩引いて自分を客観的に見ている人物。彼女は、どちらかというと大奥全体が良くなるためには自分がどう立ち回るべきかを考えていて、裏表がないのかなと思います。

――そうしたボタンのスタンスは、大奥の秩序を保つという意味ではすごく重要な役割を担っていると思います。

戸松:そうですね。彼女が発する言葉は、全体を良くするためにはこうすべきだという思いから生まれているんです。だからこそ、人間味あふれるフキとの対立を引き起こすきっかけにもなってしまう。ボタンの魅力は、そのまっすぐな性格にもありますが、この世界では強さと折れない心を持たないと生き抜けません。

スタッフから感じた作品への愛

――中村健治監督(二章では総監督)からは丁寧な前説があったそうですが、役作りに関して、どのような話があったのでしょうか?

戸松:事前に、監督がこの世界観や『モノノ怪』とは何か、登場人物一人ひとりについて丁寧にまとめた資料を作ってくださったおかげで、私はこの劇場版から初めてキャストとして関わらせていただいた立場として、非常にありがたくて。あとから聞いた話ですが、監督はこの話を口で説明すると1時間かかってしまうため、あらかじめ文章にまとめてくださったみたいなんです(笑)。

私と日笠さんが休憩していたときに、「今後どうなるんだろう?」と話していたところ、音響監督の長崎さんからすごい情報量が一気に返ってきて、途中から監督も入ってこられて、すごい熱く語ってくださるんですよ。そこで監督たちが、この世界観に対してどれほどの愛情と情熱を注いでいるかが伝わってきました。

日笠:もう用紙1枚とかじゃなくて、ものすごい分量のファイルを事前に送ってくださるんですよ。あまりにも丁寧で真面目な文章を書いてくださるのでてっきりクールな方なのかなと思っていたら、実際に会うと「あざす!」みたいな感じで、すごく明るくて驚きました(笑)。

強さを感じさせる一方で、その奥底にはもっと多くの思いがある方だと感じましたし、だからこそ監督とご飯を食べに行って、もっとその内面を知りたいと思いましたね。

――これまで何年も声優として活動されてきたお二人から見ても、中村監督のような前説はなかなかお目にかかれないものなんですか?

日笠:アフレコに行ってその場で言われるみたいなことは、よくテレビシリーズでもあるんですけど、事前にあれだけの量で送られてくるなんてないですね。

戸松:確かにないね。私、噛み砕くのに時間がかかっちゃうので、事前にあれだけの資料をいただける作品ってほんとにありがたいんですよ。

日笠:年明けに長崎さんと別の現場でお会いした際に、『劇場版モノノ怪』の話をしたんですけど、そのときに長崎さんが言っていたことが印象的で。監督はもともと持っているアイデアがあるのに、アフレコの現場で思いついたことをその場で言っているという話をしていて、私たちの演技を見た上で、設定を基に思いつきで言っているみたいなんです。資料を見るとガッチリと決まっているように感じるのに、実際にはその場で生きたものを作り上げていくという、ライブ感がある方なんだなと感じましたね。その瞬間、一瞬を大事に、より新しいものを生み出していこうという渇望が監督にはあるんだなと思いました。

戸松:不思議な方だよね。

日笠:面白いです。興味津々です。