で、翌朝──。
“ピッ”
体重は、微増していた。
んー、昨日の夜食べなかったのに。結構こういうことあるよなー。マジなぞ。
いや、便の出方とか、水分の取り方とかでこう言うことが起こるのはもう勉強済み。
たまにむくみで結構グンと体重が増えたりしてる日もあるけど、むくみが取れれば体重は元に戻る。
伊藤ちゃんが前に「体重はずっと減り続けるなんてことは絶対なくて、増えたり減ったりしながらジグザグに減っていくものですよ〜」と教えてくれた。
私はまさにその通りに、ジグザグに増えたり減ったりしながら、6キロ落ちた。
だから今日の微増にも、もはや変に動じたりはしない。
「まあ良いけど」
と呟き、あくまで凹むことなく、私はいつも通りのテンションで会社に行く準備を整え、いつも通りのテンションで家を出た。
そこで、またたまたまお隣さんに出くわして、

いつも通りなのになぜかまた変な感じになった。
でも……
昨日忙しかったせいだろうか。いつも通りのテンションとはいえ、なんだかやたらと体の疲れを感じる……。
でもな。1万歩歩かないとだしな。
と、今日も歩数を稼ぐべく、10分で行けるところを13分かけて、3分もいつもより遠回りをするという、ものすごーーい遠回りをして、会社に向かう。そして会社に着くなり、伊藤ちゃんが私のところに近づいてきた。
「昨日はすみませんでした!」
気持ちいいくらい綺麗に詫びを入れてくる。普段口の悪い彼女だが、こう言うところは素直で可愛い。
伊藤ちゃんは続けて私に
「昨日私のせいで結構残業になっちゃったって聞いて」
「ううん。大丈夫大丈夫〜」
「めっちゃ遅くまでやってたって聞いたので……。ちゃんとご飯とか食べれました……?」
まあ、そこはダイエットを月1キロペースから2キロペースにしたかったから、ちょうどよかったとも言える。そんなことを伊藤ちゃんに伝えると、
「……」
少し黙り込み、思案顔を浮かべる伊藤ちゃん。
ん? なに?
「先輩。私に初めて相談してきた頃から比べたら結構痩せましたよね? 5、6キロくらいですか?」
さすがエスパー伊藤ちゃん。ピッタリ当ててくるじゃないか。
私は伊藤ちゃんに、今まで月大体1キロずつくらい順調に落ちていたけど、それを2キロにしたいと思っていることと、正直、今がダイエットを始めてから一番やる気があるんじゃないかってくらいにはやる気だ! と言うこと。
そして最近有酸素運動も取り入れちゃってるなんてことを伊藤ちゃんに話した。
が!!
「このままだと先輩、痩せなくなりますよ?」
……伊藤ちゃんが……真顔で……めっちゃ怖いこと言ってきた。
いやいやいや。そんな訳ないじゃ〜〜ん。
だって、今までで一番やる気なんだよ?
食事だってちゃんとメンテナンスカロリー下回ってるし。なんなら今までより結構大幅に下回ってるし。
しかも1日一万歩歩く有酸素運動だって取り入れたんだよ?
軽く調べたけど、有酸素運動って一番楽に痩せられるって言うじゃん。
てか実際、昨日だって最小値更新したし。
まあ確かに今日は最小値から微増はしたけど……いや、でもそんなのよくあることだし。
「まあ……信じるか信じないかは、先輩次第です」
……こーわ。
急に都市伝説みたいなこと言ってくるじゃん。こーわ。
そしてそれから2週間――
私の体重は、エスパー伊藤ちゃんの予言通り、ピタッと止まった。
ここ2週間最小値を更新できていない。
いやいやいや。なんで??
ちゃんとやってるんだよ? 食事の管理も、有酸素も、週に一回ジムだって行ってる。
全部ちゃんとやってる。
なんなら今までで一番ちゃんとやってるんじゃないかってくらいにちゃんとやってる!!
なのに……!! なのに……!!
と、そこに女上司が近づいてくる。
あー今の精神状態で新しい仕事振られるとかマジ勘弁してほしいんだけど……
と、思っていると女上司が私にこっそり耳打ちしてくる。
「聞いて聞いて! あなたが教えてくれた方法実践して、もう1キロも減ったのっ♪」
……
あー
……
もう、ほんと……
私は2週間ぶりに、心の中で上司を、
……
蹴ろうと思ったけど、やめた。
テンションあがんないし。なんかだるいから。
あー、キッツ……。
10キロ痩せるまで、あと4キロ──