少し先の未来を見てプレーしている選手たち
続いては5対5+サーバーのポゼッションゲーム。本当にずっと狭い局面の攻守の練習をしていくんだな。そして常に守備者がいる練習なんだな、と新鮮な感覚。
ここでは、すがやは中に入るのは厳しいということでサーバーというライン上で受けては返す、フリーマンのような役割を務めさせてもらいます。
サーバーからスタートしてボールを回し、反対サイドのサーバーにつけて、もう一度スタートのサーバーまでパスを返したら一点。ロストしたら相手ボールで同じことを繰り返す……というサッカーをやっていた人なら誰もがやったことがあるメニュー。

しかし、みんな上手いことうまいこと。僕がパスコースを見つけられず停滞するのですが、その度に細かな動き直しやポジション修正で次々とパスコースが生まれていきます。
そうなると僕みたいなもんは、
「上手いんだから足元にボールぶち込んだら勝手にどうにかするやろ!!」
と無責任メンタルでズバズバ愛のない速いだけのパスを入れていきます。
そして、彼らは僕へのリターンも躊躇なくしながら普通に対応していきます。至近距離で強いパス出しているんだけどなぁ。
そしてサーバーにあるまじき僕のパスが奪われるシーンも散見されたのですが、ディフェンス側もわざと背後のパスコース空けたりして罠を張っているんですよね。
オフェンスもディフェンスも常に周りの360度の状況を把握して、少し先の未来を見てプレーしている印象を受けました。
あと彼らめちゃくちゃ優しいので、ミスしても僕を気遣ってくれるし、いいパスを刺すと褒めてくれます。雰囲気いいなぁ。
さて、「ここからは怪我しちゃう可能性あるから」ということで見学に回ります。
ペナルティエリアよりちょっと大きめのコートで3対3のシュートゲームです。強度もスピード感も高まり、かなり実践的なメニューになってきました。

その中でも気になったのは、シュートゲーム練習では珍しいPKがあるということ。ファールがあると、PKを蹴るのです。
コーチの野崎桂太さんにこの理由を尋ねると、
「こういうゲームって、トランジションとか倒れないことを重視して、ファウル気味でも流すことが多いんだけど、それが癖づかないようにあえてPKをとっています」とのこと。
野崎さん「やられかけている局面でスライディングしちゃうのって、実は楽じゃないですか」
すがや「確かに! あれは時にチームを助けるスーパーなプレーになるけど、楽ではあるんですよね」
野崎さん「でも、そこでもう一歩二歩食らいついていけるようにならないとダメだって、最近の試合の反省を活かして」
すがや「なるほど。試合の反省をこういった形で練習に取り入れているんですね」

そして気になったのが、頻繁に聞こえる
「腕!腕!!」
というコーチング。これも野崎さんに尋ねると
「うちは関東一部のトップの選手と比べると身体が小さいので、ハンドオフ(手で相手を押し返す)ということを強く意識していかないといけません。それを練習中から意識させています」
この後のフルコートを使ったシチュエーションゲーム(試合中に逐一止めながら攻守の立ち位置を確認する練習)でも、キーパーから繋ぐだけではなく、ロングキックから始める局面も練習したりと、自分たちのサッカーにこだわりながらも、公式戦で出た反省点や自分たちの弱点と向き合って、柔軟に練習メニューを変化させているのだと感じることができました。

「ほかの大学とは違うサッカーで強くないといけないんです」
試合を見ていて気になった「ポゼッション型だけど、意外とゴールキックから繋ぐことにこだわらないですよね」という質問も流れで野崎さんにしたところ、
「相手を見て、ピッチ上で考えてやっていますね。特に関東のトップはフィジカル化け物ばかりですから。繋ぐことに固執して痛い目を何度も見ているんでね」
と、新興勢力だった数年前から強豪になっていった繋ぐチームの年輪のようなものを感じる返答。そして、その後の言葉が印象的でした。
「たとえば、同じサッカーで同じ強さで、東洋大と、早稲田大・明治大・筑波大という選択肢があったら、後者の大学にいく人が多いんじゃないかと思うんです。プロになれなくても学歴がつくし、親も絶対そっちを勧める。じゃあ僕たちは、“それでも東洋でやりたい”っていう、ほかの大学とは違うサッカーで強くないといけないんです」
思えば僕や野崎さんが大学サッカーをしていた2009〜2013年あたりの専修大学は、関東二部だった専修大学が昇格初年度から4連覇。町田也真人選手(現:ギラヴァンツ北九州)や庄司悦大選手(2024シーズンにFC岐阜で引退)、長澤和輝選手(現:ウェリントン・フェニックスFC)に下田北斗選手(現:FC町田ゼルビア)、そして仲川輝人選手(現:FC東京)らの美しいポゼッションサッカーが席巻していました。
それこそが日東駒専の生きる道なのかもしれません(駒澤は完全に真逆のルートで差別化を図っていますが)。
そんな僕と同い年の野崎選手が在籍していた当時より、かなり力をつけている印象の東洋大学なんですが、特に安定して成長曲線が上向きになってきたのは、野崎コーチ曰く、井上監督が就任してからなんだとか。
井上監督は、オシムさんがジェフの監督だった時にコーチを務めており、どんな指導者なのか非常に興味があったのですが、野崎コーチや選手に聞くと
「みんなの話をすごく聞いて取り入れてくれる」「吸い上げた意見をまとめてくれる」といった意見が多かったです。
てっきり、めちゃくちゃ戦術家でめちゃくちゃ厳格なのかと思っていました。
あの立ち位置の妙を感じるサッカーも、選手が相手を見てピッチ上で気づいて修正している、とのこと。
そのやり方で、就任以降チームがどんどん強くなっている。これは一度の練習参加ではわからない奥深さがありそうだ……。
最後はセットプレーの練習をおこない、終了。見ているだけでも楽しすぎてあっという間だったなぁと思っていたら、野崎コーチが
「誰が年上かわからないでしょ?」
と、聞いてきました。たしかに練習後の選手たちの様子を見ていてもわからない。ピッチの上では年齢は関係ない、なんてことはよくありますが、ピッチ外でも感じないのは東洋大の最大の特色かもしれません。仲が良く、上下関係はほとんどないのだとか。
「それが魅力です!」
とニコニコと教えてくれたのは2年生でした。
この雰囲気があるから、ピッチ上で起きた問題を選手たちだけで解決できるのかもしれませんね。
井上監督中心に東洋大学独特の雰囲気ができてきているな、と感じた練習体験記でした。
次回の『カカロニ・すがやの大学サッカーReport』は、●月●日(月)更新予定です。お楽しみに!
