《第25話》「ダイエット中にケーキを食べる女の末路」

朝──。
小鳥のさえずりが聞こえるような……聞こえないような……。

“ピッ”

鳴ったのは、小鳥。ではなく、私の愛用する体重計。
私の体重は……

10キロ痩せるまで、あと9キロ──

になっていた。

……どういうことだろう? 

私は、痩せたんじゃなかったっけ??

頑張って、試行錯誤して、失敗して、停滞して、
それでも8ヶ月くらいかけて、8キロ以上痩せたんじゃなかったっけ?

あー、もしかしてあれか……あれは、夢か。

そりゃそうだよね。
私がそんな、8キロ痩せるなんて、できるわけないじゃーーん!
私がそんな、8キロ痩せるなんて、あり得るわけないじゃーーん!

夢か。なんだ。

私は、もう一生痩せられないんだな。そういう身体なんだな。そういう人生なんだな。

それならもういっそ、もう一生、小ブタさんのまま、生きようじゃないか!

何も気にせず目の前に広がるこの飽食の時代を、楽しもうじゃないか!
目についた美味しそうなものを、何も気にせず食べようじゃないか!

もうサイコーー!!

 

ぬはっっっ!!!!!

私は、ガバッとベッドで身を起こした。
……なんて……なんて恐ろしい夢だったんだ。
え、夢だよね? ちゃんと夢だよね?

“ピッ”

10キロ痩せるまで、あと1.1キロ──

良かった。ちゃんと夢だった。
てか体重最小値更新しとる。嬉し。

仕事が忙しくて体が疲れていたせいもあってか、ちょい停滞を食らっていたけど、あれからいっぱい寝て、疲労が取れたからかスッと体重が落ちた。

その後、“ざっくりレコーディング”により設定したカロリーは守りつつも、1日のうち1〜2回くらい糖質をGI値の低いもの(オートミールとか)にしてみたり、

 

しばらくやめていた“移動中に積極的に歩く戦法”(詳しくは第18話参照)をアツオのアドバイスで再開してみたり、

他にも最初からなんだかんだずっと私のダイエットを支えてくれている“選ぶもの大作戦”や“擬態めし”を駆使して、

なんだかんだで、

10キロ痩せるまで、あと1.1キロ──

見えてきた。とうとう、とうとう長い旅路の終わりが見えてきた。
そして、見えてきたのはそれだけではない。
私の身体には、今までの人生で見たことがない、あるものが見えてきたのだ。
私の腹にうっすら見えてきた……見たこともない線。

「……待って……。私、腹筋割れてね?

 

ごくごくうっすらではあるが、もしかしたら他人にはわからないかもしれない程度だが、腹筋の形がうっすらわかる線が、私の腹に現れた。

マジか。
別にしこたま腹筋を頑張ったわけではない。
なんなら腹筋なんてモッちゃんとジムに行った時ですらやっていない。(なんか嫌いだから)

でも、うっすらと割れているように見える私の腹。(アツオ曰く、体脂肪が落ちれば腹筋運動をしなくても腹筋は誰でも割れるらしい、男でも女でも)

鏡の前で横から見た自分の腹も見てみる。
え、なんか、自分で言うのあれだけど……

私、美腹じゃね??

 

ま、まさか、こんな自分が見られるなんて……!
鏡を見て、しみじみ思う。

「私……痩せたな……」

……へへ……へへへ……
ダメだ、にやけてしまう。
頑張って良かった。

と、は、い、え!!

痩せたことで良かったことばかりでは、正直ない。
嫌なこと……というより、めんどくさいなと思うことがいくつか起こった。

例えば、先日職場で……

「綺麗になったねー」

と、同僚の女性に言われた。
いや、これをめんどくさいと言っているわけではない。むしろ嬉しい。でも! そのあと、同僚の女性はなんのけなしに、おそらくなんの悪意もなく、こう言ったのだ。

「なんのためにやってるの?」

……なんのため??

海行くの?
彼氏出来た?
あ、好きな人出来たとか?