茂みから“ガサガサ“という音が……

昼下がりの太陽に照り付けられてもう地獄だ。
「地獄かよ」ってちゃんと口にして言ったと思う。

すると突然、雑草が密集してる奥の茂みから

“ガサガサ“

と音が聞こえた。

何か生き物が動いてる。

体を止めて様子を見ると、ゆっくり草が揺れながらこちらに向かってくる。

体に緊張が走る。

なんだ!? 猫か? いやこの動きは猫じゃない。

たぬき?

いや、この辺でたぬきが出る情報は聞いたことない。

草刈鎌を構えて臨戦態勢を取る。
怖気ついて逃げようかと思ったけど、自分の中の藤岡弘がそれを止める。
ここで逃げたら“漢”じゃねぇ。

「おいおい。びびってんじゃねぇか?かかってこい!」

威勢よく草むらにうごめく何かにカマしを入れる。

こっちがビビってる時はあえて相手をビビらす。
これがオレの流儀だった。

オレのカマしに恐れる事なくどんどん近付いてくる。

雑草の揺れはこちらに近づくほどに大きくなる。
オレの心臓がYOSHIKIのドラムのように激しく鼓動する。

「来るなら来い!」

覚悟を決めたその瞬間、揺れの正体が姿を現す。

バッタだ。

でかい目の上に触覚があり、どこまでも飛んで行きそうな長い後ろ足。
完全にバッタ。

しかもめちゃくちゃデカいバッタ。
サイズで言うとウサギくらいのデカさだ。


あまりの衝撃に体が動かなくなる。
お互いに完全に目が合ってる。

牽制しあうように睨みつけ合う。

巌流島の武蔵と小次郎。
西部劇のガンマン。

先に動いた方が負ける。

実際は数秒だったであろうが、体感時間1時間の睨み合い。

勝負は一瞬だった。
気の緩みで一瞬目を逸らすとバッタが動いた。

「うわぁあああああああ!!!!!」

その瞬間オレは恥ずかしげもなく悲鳴をあげながら草むらから飛び出して、そのままの勢いで家に入って玄関の鍵を閉めた。

膝から力が抜けて地面にへたり込む。

「うるさいねぇ なにしてんだい?」

オレの大騒ぎを聞きつけたばあちゃんがだるそうに話しかけてきた。

オレは騒ぎ出す感情を冷静に落ち着かせて、口を開いた。

「巨大バッタと戦った」と。

ばあちゃんは説明の途中で自分の部屋に戻っていった。
去り際に、「いいから早く雑草刈りなさいよ」と吐き捨てて言った。

なんで信じてくれないんだ。
本当なのに。

それからオレは、ありとあらゆるコミュニケーションを取れる人間にこの話をしたが誰も信じてくれなかった。

屈強な友達を呼んで再び裏庭に行ったけどデカバッタは現れる事はなく、オレが変な言い訳で草むしりを手伝わせるやつになっただけだった。

大人になってからもこの話をした事もあるけどウケもスベリもしない。

一度相方のギャル2人に話したが、ため息をつかれた。

ただオレは諦めていない。

今これを読んでくれてるあなたも“何を長々書いてんだ 早く寝ろ”と思ってるだろう。

この話しに関してはオレは反省しない。
だって本当だから。

次回、反省第9回「欲しがるな、さらば与えられん」は、10月20日(月)更新予定です。お楽しみに!!