いかなご醬油(玉筋魚醬油)

くさい度数★★

香川県に伝わる伝統的な魚醬(ぎょしょう)といえば、いかなご醬油である。秋田の「しょっつる」、石川の「いしる」と並び、日本三大魚醬のひとつとされている。

いかなご(こうなご)は、サワラと共に、瀬戸内海の春を告げる魚で、いかなご醬油は旬のいかなごを塩漬けにして発酵・熟成させ、その汁を漉(こ)してつくる。戦時中の食糧不足の時代には、大豆醬油の代わりにこの地域では各家庭でも盛んにつくられていた。

いかなご イメージ:PIXTA

ところが、昭和30年代に入って大豆醬油が手軽に入手できるようになると、いかなご醬油の需要は激減。しょっつるやいしると違って、いかなご醬油には「これには欠かせない」という郷土料理がなく、そもそも香川県は大豆醬油の産地でもあることから、いかなご醬油は衰退していったと考えられている。

それでも最近は、いかなご醬油を復活させようという動きがあって、これを製造・販売するところが出てきたのは、魚醬ファンにとっては嬉しいニュースである。

いかなご醬油は、魚醬の中では塩分が少なくてまろやかなので、鍋ものや煮もの、汁ものなどのダシや隠し味としてだけでなく、刺身や豆腐のつけ醬油として初心者がそのまま使ってもそれほど抵抗がない。

刺身定食 イメージ:PIXTA
自らを“発酵仮面”と称し、世界中の魚醤(ぎょしょう)を食べつくしてきた小泉教授に、それぞれの「くささ」の度合いについて星の数で五段階評価してもらった。 発酵食品は宿命的に、くさいにおいを宿しているが、それこそが最大の個性であり魅力なのだ。

「くさい度数」について
★あまりくさくない。むしろ、かぐわしさが食欲をそそる。
★★くさい。濃厚で芳醇なにおい。
★★★強いくさみで、食欲増進か食欲減退か、人によって分かれる。
★★★★のけぞるほどくさい。咳き込み、涙する。
★★★★★失神するほどくさい。ときには命の危険も。

※本記事は、小泉武夫:著『くさい食べもの大全』(東京堂出版:刊)より、一部を抜粋編集したものです。