高菜漬け

くさい度数★★★

全国各地でつくられている菜漬けの中で、よく知られているのが高菜漬けである。

高菜漬け イメージ:PIXTA

高菜はアブラナ科の植物で、中国から伝来したといわれているが、その食の歴史は古く、平安時代に編纂された『新撰字鏡』などにも「太加菜」の名で登場する。地域によって、青菜、芭蕉菜、カツオ菜、山潮菜といったさまざまな呼び名がある。

主に漬物に使われていて、塩漬けにしたあと乳酸発酵させたものが高菜漬けである。あまり発酵させないで浅漬けにしたものもあるが、くさい度合いで選ぶなら、断然、乳酸発酵させた高菜漬けに軍配が上がる。

高菜漬けを使った私の大好物に、高菜ラーメンがある。ラーメンに刻んだ高菜漬けをどっさりのせたラーメンなのだが、高菜漬けをたくさん入れることで、ラーメンの脂っこさが中和され、見事、和風ラーメンに変身する。中華料理と高菜は意外に相性がよく、チャーハンに刻んだ高菜を入れたメニューも人気だ。

高菜漬けだけを油で炒めたものは、酒の肴として最高である。炒めると、さらに独特のくさみが増して、いくらでも食べられる。ごはんのおかずにしてもうまい。

純和風の食べ方としては、高菜漬けで包んだおにぎりがある。これも只事ではないうまさだ。最近はコンビニやスーパーの惣菜売り場などでも見かけるが、私は和歌山県で食べた「めはりずし」が、このおにぎりとの最初の出合いだった。

めはりずし イメージ:PIXTA

めはりずしは、古漬けにした高菜の葉を広げてごはんにのせ、茎の部分はみじんに切って中に押し込みながらおむすび状に握ったものである。普通のおにぎりよりひとまわり大きいため、口いっぱいに頰張ると、目を大きく見張ってしまうことから、「めはりずし」の名がついたという。

そこでさっそく、ガブリと思いきりよくかじりつくと、高菜漬けの発酵臭とともに、口の中に素朴な風味が広がり、あまりのうまさから、一度ならず二度も目を見張ってしまった。めはりずしのうまさ、恐るべしである。

高菜の名産地のひとつ、熊本県の阿蘇(あそ)には「高菜めし」という郷土料理がある。卵と高菜を炒めて、ごはんとゴマを加えたチャーハンのような混ぜごはんで、これは一般の家庭でもよく食べられているようだ。

自らを“発酵仮面”と称し、世界中の漬物を食べつくしてきた小泉教授に、それぞれの「くささ」の度合いについて星の数で五段階評価してもらった。 発酵食品は宿命的に、くさいにおいを宿しているが、それこそが最大の個性であり魅力なのだ。

「くさい度数」について
★あまりくさくない。むしろ、かぐわしさが食欲をそそる。
★★くさい。濃厚で芳醇なにおい。
★★★強いくさみで、食欲増進か食欲減退か、人によって分かれる。
★★★★のけぞるほどくさい。咳き込み、涙する。
★★★★★失神するほどくさい。ときには命の危険も。

※本記事は、小泉武夫:著『くさい食べもの大全』(東京堂出版:刊)より、一部を抜粋編集したものです。