アケビとヤマブドウの熟鮓 

くさい度数★★

日本の漬物として、ひとつ珍品を紹介したい。青森県弘前市の近郊の村で出合った「アケビとヤマブドウの熟鮓(なれずし)」である。植物だけの熟鮓というのは、世界的にも非常に珍しい。

ちなみにこの名前は、じつは私が勝手につけたもので、地元の人たちのあいだではとくに呼び名がないということだった。毎年つくっているのに名前がないというのも奇妙な感じだが、ともかく、くさくてうまいのはまちがいない。

材料は、熟したアケビとヤマブドウ、もち米、砂糖、塩である。

アケビ イメージ:PIXTA

アケビは種などの中身をきれいに取り除いて皮だけにし、熱湯に通しておく。そして、もち米を炊き、少し冷ましたところにヤマブドウの粒と砂糖、塩を加えてよく混ぜ、その一部を残して、アケビの皮に詰め込んでいく。ちょうど、いなりずしのようなイメージである。

ヤマブドウ イメージ:PIXTA

アケビの皮に詰め終えたら、残ったもち米のごはんの半分を漬け桶の底に敷き、その上に先ほどのアケビを重ねて並べ、一番上に残り半分のもち米のごはんをのせ、蓋をして発酵させる。

秋に漬け込んだものは、正月頃から食べ頃となる。漬け桶から出すと、ヤマブドウの色素でアケビは眩しいほどの赤紫色となっていて、それを筒切りにすると、もち米のごはんも赤紫色に染まり、見た目がじつに美しい。

口に頰張ると、乳酸発酵による酸味と甘味、そして発酵臭、アルコールの芳香などが入り混じって、世にも珍しい風味の漬物となる。

自らを“発酵仮面”と称し、世界中の漬物を食べつくしてきた小泉教授に、それぞれの「くささ」の度合いについて星の数で五段階評価してもらった。 発酵食品は宿命的に、くさいにおいを宿しているが、それこそが最大の個性であり魅力なのだ。

「くさい度数」について
★あまりくさくない。むしろ、かぐわしさが食欲をそそる。
★★くさい。濃厚で芳醇なにおい。
★★★強いくさみで、食欲増進か食欲減退か、人によって分かれる。
★★★★のけぞるほどくさい。咳き込み、涙する。
★★★★★失神するほどくさい。ときには命の危険も。

※本記事は、小泉武夫:著『くさい食べもの大全』(東京堂出版:刊)より、一部を抜粋編集したものです。