表面の意匠が見事なイスラム建築

イスラム建築は、煉瓦、日干し煉瓦、割り石コンクリートなどを使い、表面にはスタッコ、テラコッタ、彩釉(さいゆう)タイル、石パネルなどを用い、構造とは関係なく華やかで技巧的な表面の飾りを重視している。偶像否定なので『コーラン』の聖句や、幾何学文様、植物文様などの浮彫、透かし彫り、モザイク、象眼などが使われる。

エルサレム旧市街は城壁に囲まれ、ユダヤ教の神殿の丘、嘆きの壁、キリスト教徒の聖墳墓教会、イスラム教徒の岩のドームなど歴史的に重要な宗教遺跡が数多くあり、独特な世界観を感じられる。

後ウマイヤ朝の首都だったスペインのコルドバの聖マリア大聖堂は「メスキータ」(モスク)と呼ばれる。ストライプ模様に彩られた「列柱の森」が印象的だ。

▲メスキータ イメージ:PIXTA

グラナダ南東の小高い丘の上に建つアルハンブラ宮殿は「イスラム建築の華」とも称される。イスラム建築の粋を集めた建物や装飾は、長い歴史を経たいまでも人々を引きつける。『アルハンブラ宮殿の思い出』の美しいギターの音色を聴きながら歩いてみたい。

エスファハーンは16世紀末にサファヴィー朝の首都が移された。イマーム広場は、青を基調とした華麗な装飾が施されたモスクや宮殿があり「世界の富の半分がここにある」といわれた時代をしのばせる。パリの洋菓子店『ピエール・エルメ』の名菓イスパハンは、この地の香り高いバラを連想して創作されたものだ。

イスラムの都市のなかでは、9世紀初頭に開かれたモロッコのフェズ旧市街が、世界一の迷宮都市といわれる。

▲モロッコ・フェズ イメージ:PIXTA

南アジアでは、アンコールワット(カンボジア)がヒンドゥー美術を代表する。大伽藍(だいがらん)と精巧な彫刻からなるクメール文明の傑作である。16世紀に仏教寺院に改修された。

インドネシアではジャワ島中部に8~9世紀中ごろ、この地を支配していたシャイレーンドラ朝によってボロブドゥール寺院が建てられた。

アジャンター石窟寺院は、デカン高原にあるグプタ様式美術の代表的な壁画や彫刻が豊富。その壁画がとくに知られる。

タージ・マハルは17世紀半ば、ときのムガル帝国皇帝が亡くなった妃のために建設した真っ白い大理石の墓廟(ぼびょう)〈1653年竣工〉で、外壁を飾る彫刻から庭園のレイアウトに至るまで、完璧なシンメトリーにこだわっている。

インド・ジョードプルのシンボルであるメへラーンガル城塞は、マールワール王国のマハラジャが1947年インドに統合されるまで、およそ500年住んでいた。その間、時代に合わせて増改築を繰り返したので、内部の装飾はさまざまな建築様式を反映している。

※本記事は、八幡和郎:著『365日でわかる世界史』(清談社Publico:刊)より一部を抜粋編集したものです。