社会人としてのレベルは「語彙力」で測られる現実がある。稚拙な表現や、思慮の浅そうな表現をしたり、自分の中にある語彙の量が不足していれば、社会人としてのレベルを低く見積もられてしまうだろう。「語彙力」本の第一人者である山口謠司氏に、読み方が紛らわしい熟語のひとつ「代替」を紹介してもらった。
※本記事は、山口謠司:著『語彙力がないまま社会人になった人へ』(ワニブックス:刊)より一部を抜粋編集したものです。
「代替」の読み方は4つ
読み方がいろいろある言葉に「代替」という熟語があります。
・だいかえ
・だいたい
・だいがわり
このように、この熟語には四つも読み方があるのです。
ひとつずつ、意味も、もちろん違います。
「しろがえ」と読むと「品物を売って、金銭に換えること」、あるいは「物々交換をする」という意味を表します。
戦争が終わってまもなくの食糧危機で、都会から田舎に買い出しに行く頃まで使われていましたが、最近ではほとんど使われません。
ビジネスシーンでは「だいたい」が使われる
「だいかえ」と読むのと「だいたい」という言葉は、同じ意味で使われます。「他のもので代えること」を表します。
ビジネスの場では、この「だいたい」という言葉が頻繁に使われます。「代替案」を出しなさいとよく言われます。
実は「だいかえ」というのは間違った読み方です。でも、「だいたい」というと「大体」という言葉と同じ発音なので、意味を取り違えてしまう可能性が少なくありません。
「A君が休みなので、誰か“だいたい”しておいて」
と言われたらどうしますか。誰かが「大体」でいいから、A君の仕事をやればいいような意味に取られかねません。
「だいかえ」なら「代わりに誰かが」という意味で、間違わずに済みます。
「大体」と「代替」、「漢字」と「感じ」、「放送」と「包装」、「愛情」と「哀情」など、同音異義語を挙げれば切りがありません。
同音異義語をどうしても使わないといけない場合は、間違った意味に取られないために、前後の言葉でそれらを補う必要があります。
「かんじが違うね」では、漢字が間違っているのか、感じが違うのか、分かりません。
もちろん「どんな状況で使われているのか」が分かれば間違うことはないのですが、状況が分からないときは「彼が書いたかんじは違うね」と言えば「漢字」だと分かりますし「着たかんじで全く雰囲気が違うね」と言えば「感じ」ということが分かります。
誤解されないためには、できるだけ語彙を豊かに使うことも必要なのです。
「だいがわり」は厄介
さて、それでは「代替」を「だいがわり」と読むことの説明をしましょう。
実は、これは同じ読み方で、二種類の意味があります。つまり同音異義語です。
ひとつは、世代交代の意味で、社長などが替わることを言います。
そしてもうひとつは、取引相場で、相場が値上がりし、値段が今までの円位からその上の円位にかわることを言います。
ただ、この相場の「代替」は今では「台替(だいがわ)り」と書かれるようになり、さらに取引が口頭ではなく、コンピュータで行なわれるようになってしまったために、ほとんど使われなくなってしまいました。
言うまでもなく、時代の変化とともに、使われなくなり忘れ去られる言葉というのも少なくないのです。