会社に勤めている多くの人にとって、昇格や異動などの人事に関する評価が気になる季節が近づいてきました。兼好法師が遺した『徒然草』には、現代の仕事や人間関係にも役立つ教えが書かれています。賢く考え、人生を楽しみ、しなやかに生き抜くために──。あなたの心配事、悩みの解消法を「日本語の専門家」として人気の山口謡司氏が紹介します。
※本記事は、山口謡司:著『現代エッセイ訳 徒然草』(ワニブックス刊)より、一部を抜粋編集したものです。
「相手の利が第一」と考えるとお金で関係は悪化しない
我が身を後にして人を先にするにはしかず。
(第百三十段)
─────────
【現代語訳】
他人と争わねばならぬ状態にまで、関係が切迫しないよう平素から心がけ、他人の意見をできるだけ取り入れ、自分の利益になる行為はできるだけあとにして、周りの人々の面子(メンツ)を先に立てるようにするのが一番いいのです。
一年ほど一緒に仕事をした人がいました。マネジメントとプロデュースをさせてほしいということでした。テレビなどのメディアにも顔が広いということで、これからは一緒に仕事をしていきましょうということになったのです。ただ、うまくはいきませんでした。
私から、これ以上一緒にお仕事をすることはできません、というお手紙を出したのです。
マネジメントに入っていただいたあるプロジェクトで、お金に関して問題が発生していたようで、その解決がいつまで経ってもされなかったのです。
相手は、せっかく始めた企画もあるし、これまで以上にきちんとするとのことでしたが、私はご返事も差し上げませんでした。
遊びなら笑ってすませられても、お金が絡む仕事のことで悩み始めると、他のことにも悪い影響が出てきてしまいます。一緒に仕事をするためには、息が合う、合わないということももちろんあるでしょうが、お金の問題というものほど怖いものはありません。一度その点でこじれたり、不快さを抱くようなことになると、修復するのはほとんど不可能です。
それではどうすればいいか。ここで言われるように、常に、どのような立場であっても、相手にとっての利益を第一に考えてあげるということです。必ずしもお金のことだけではありません。
自分が前に出る代わりに、常に相手を引き立てるようにする。「自分が、自分が」と先に出てしまうようになると、相手は嫌になってしまいます。これでは一緒に仕事をすることはできません。
これは、友人関係でも、恋愛などにしても同じことでしょう。相手と競争をしない関係、反対に、一緒にいると安心していられる関係をつくることが仕事でも恋愛でも大切です。
そのためには、相手のことをきちんと考えてあげる。そして、いろんな人の意見を聞くことが大切なのです。