厚生労働省による日本人の死亡原因でトップとなっているのが「がん」。現代人の偏った食事は腸内環境を悪化させ、活性酸素が発生する原因となっており、星子クリニック院長の星子直美医師に、活性酸素とがんの関係について聞いた。

※本記事は、星子尚美:著『腸のことだけ考える』(ワニブックス:刊)より一部を抜粋編集したものです。

動物性の脂肪やたんぱく質は悪玉菌の大好物

バターや肉の脂身を想像していただくとわかりますが、動物性の脂肪は常温では固まっています。それらを食べると、体温37℃くらいのヒトの体内でなんとか溶けはしますが、サラサラではなくドロっとした状態で留まります。

ヒトの消化器には脂肪の分解を行う酵素もありますが、動物性の脂肪は消化・吸収に時間がかかり、長く腸内に留まるのです。

これら動物性の脂肪やたんぱく質を待ち構えているのが、大腸に棲みついている腸内細菌たち、なかでも大腸菌やウェルシュ菌などのいわゆる悪玉菌たちです。

悪玉菌たちは動物性の脂肪やたんぱく質が大好物なので、それらを食べては増殖し、アンモニア、インドール、スカトール、アミン、硫化水素など、いかにも悪臭がしそうなガ スを生成します。「クサい」だけならまだマシかもしれません。

しかし「クサい」のはこれらの物質の毒性を反映しています。実際、これらのガスは有毒です。これが腸壁から吸収されると血液に乗って全身に運ばれ、細胞を傷つけます。

例えばアンモニアは強いアルカリ性物質であり、柔らかい腸壁の粘膜を傷つけます。アミンは有名な発がん物質です。硫化水素にいたっては、吸い込むと死にいたるという有毒ガスです。

もちろん、日常的な発生量は命に関わるほどではありませんし、ヒトの消化器にはこうした物質の毒性を中和する働きがあります。そして、野菜や豆類、果物など食物繊維やビタミン類が豊富な食べ物を一緒にたくさん食べれば、やはりそれらの毒性は中和されるので、大きな問題にはなりません。

▲食物繊維やビタミン類が豊富な食べ物 イメージ:PIXTA

ただし食事内容や生活習慣によっては、そんな恐ろしい有毒物質が毎日のように発生することになり、それが血液に乗って全身に回ってしまうのです。

手軽な食事ばかりだと腸内環境は悪くなる

腸内細菌や腸内環境に関する注目度は世界的に高くなっています。というのも、今日では日本人だけでなく、先進国全般で食事が肉や乳製品など動物性のものに偏る傾向が強く、腸内環境が悪化しつつあるからです。

テキサス大学の研究で、人類の進化と腸内細菌の変化の相関関係を調べて発表したものがあります。同大学の研究チームは、世界各地の類人猿(チンパンジー、ゴリラ、ボノボ等)とアメリカ人、ヨーロッパ人、ベネズエラの熱帯雨林の原住民、アフリカはマウイ共和国やタンザニアの人などの便を収集し、それぞれの腸内細菌を調べました。

その結果、類人猿にも人間にも同じ腸内細菌が棲んでいること、しかし細菌の構成比が大きく異なること。そしてヒトでは、先進国の住人とそうでない地域の住人では大きな違いがあることがわかったそうです。

その大きな違いとは、腸内細菌の数です。先進国の住人ほど腸内に棲んでいる細菌の数が少なく、また減少し続けていることがわかりました。しかも都会に住むほど、その傾向は強くなるようです。

ただ腸内細菌は、もちろん善玉菌優位であることが重要ですが、なるべくたくさんの種類の細菌がいるほうがよいのです。腸内細菌の種類が豊富で多彩な仕事をしてくれることが、肥満や糖尿病やがんなどの病気を防ぎ、私たちの健康につながります。

なかには、そうした病気を誘発する細菌もいますが、腸内細菌のバランスが良ければ問題ありません。食生活の違い、そして生活習慣の違いは腸内環境に如実にあらわれます。

やや大ざっぱに言ってしまうと、レトルト食品や加工食品、外食など、楽でお手軽なものやおいしいもの(本当の意味での「おいしさ」ではないですが!)ばかり食べていると 腸内環境は悪化する、ということが全体的な傾向として言えると思います。

▲手軽な食事ばかりだと腸内環境は悪くなる  イメージ:PIXTA

 ちなみに、農薬まみれの食材や抗生物質の乱用も、腸内環境を悪化させます。