厚労省の人口動態統計(2018年)によると、日本人の死因の1位は悪性新生物、つまり「がん」です。星子クリニック院長の星子直美医師によると、腸内環境の悪化が大腸がんや乳がん、そして多くの生活習慣病とも関係していると言います。
※本記事は、星子尚美:著『腸のことだけ考える』(ワニブックス:刊)より一部を抜粋編集したものです。
自覚症状があまりない大腸がん
がんという病気には、社会や環境の変化の影響が強くあらわれます。例えば、ひと昔前までは日本人のがんで一番多いのは胃がんでした。原因は、塩分の過剰摂取とヘリコバクター・ピロリ菌などによる水(井戸水)の汚染です。減塩運動が進み、上水道が完備された今日においては、胃がんは減少傾向にあります。
これに代わって増加したのが大腸がんや乳がん。大腸がんは女性のがん死の1位、男性のがん死の3位です。
原因は食生活の欧米化と言われています。
日本人の食生活が大きく変わり、現代人は肉や乳製品の多い洋食を好んで食べるように なりました。動物性〔といっても魚ではなく獣肉〕の脂質やたんぱく質の多い食事は、消化吸収に時間がかかり、腸に大きな負担がかかってしまいます。便秘も起こしやすくなります。
そして、こうした食品は腸内でも特に悪玉菌が好み、大腸菌やウェルシュ菌などが消化する際に、さまざまな有害物質を生成します。また長く腸内に留まることで酸化が進み、栄養成分としても劣化していきます。食品の酸化と滞留、便秘、悪玉菌の増加、有毒物質の生成、これらとともに起こるのが活性酸素の大量発生です。
活性酸素の約90%は、腸内の悪玉菌によって発生しています。こうして腸内環境が「発がん物質まみれ」の状態になっていくのです。大腸でがんが発生しても、自覚症状はあまりありません。また腸のどこに、がんができるかによっても異なります。
血便が出たり、がんが便通を阻害して便秘になったりするといった症状が出るのは、がんがかなり大きくなってからのことです。また血便は痔(じ)と間違われやすく、がんの発見が遅れやすくなる要因のひとつです。ちなみに、大腸がんの標準治療は手術です。がんの組織を、いかにきれいに取りきるかが治療の成否を決めます。
大腸がんは、抗がん剤や放射線による治療効果があまり期待できないとされています。なので、手術の成否に結果が左右されやすいのです。