文革以来最大規模の外国人記者追放事件

中国が仕掛けている新型コロナを巡る情報戦は、対外的なものと対国内向けのものがあり、その2つは連動しています。国際社会が驚いたのは「新型コロナウイルスを米軍が武漢に持ち込んだ」という“陰謀論”を、中国外交部報道官が言い出したことでしょう。

3月12日夜、中国外交部の趙立堅報道官はツイッターアカウントで、英語と中国語で、

ゼロ号患者(未確認の最初の症例)は、いつ米国で発生したのだ?
何人が感染したのか?
病院の名前は何と言う?
おそらく米軍が武漢に持ち込んだのだろう。米国は透明性を!
データを公表しろ! 我々に説明していないじゃないか!

とツイートしました。

これは、米国国家安全保障問題担当大統領補佐官のロバート・オブライエンが3月11日にヘリテージ財団の講演で、中国が2019年末にウイルスが確認されたあとの対応が遅く、不透明であったと批判したことへの反論とみられています。

オブライエンは、トランプ政権が中国全土からの渡航制限に早々に踏み切ったことを高く評価し、また中国の隠蔽がパンデミックの原因だとして、中国責任論を展開していました。

▲ロバート・オブライエン 出典:ウィキメディア・コモンズ

米国ではそれ以前から、ポンペイオ国務長官が「武漢が発生地であることを忘れてはならない」などと発言し、またFOXテレビの名物司会者のジェシー・ワッターズが「中国は(新型コロナウイルス問題で)全世界に謝れ」といった中国責任論を展開していました。

▲マイク・ポンペイオ 出典:ウィキメディア・コモンズ

ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)は、中国のことを「アジアの病人」と呼ぶ論説記事を掲載。これに対して中国は2月19日に中国駐在のWSJ記者3人を国外退去処分にしました。 ちなみにトランプ政権も、中国メディア4社に対して記者数を160人から100人に制限すると発表、中国国営メディアを在外公館扱いとして、そのスタッフや所有不動産についての国務省への報告を義務付けました。

これに対して習近平政権は、3月中旬にWSJ、ニューヨーク・タイムズ、ワシントン・ポストに勤務するすべての米国人に対して、年内いっぱいが期限となっている記者証の返還を命じました。これは、文革以来最大規模の外国人記者の追放事件でしょう。

つまり中国は「米国が、米国メディアを使って、中国の責任論を中国国内世論も含めた国際世論で誘導しようとしている」という認識なのです。 それは中国が伝統的に、国営メディアを使って情報戦、米国世論を含む国際世論誘導を行ってきたからです。同じことを米国もやっていると思っているわけなのです。