香港デモ、台湾総統選、ウイグルやチベットへの弾圧、そして新型コロナ……混乱の源をたどると習近平政権に行きつく。チャイナマネー漬けのエチオピア出身であるWHOのテドロス・アダノム事務局長と、中国に忖度することもなく水際対策を成功させた蔡英文総統。中国ウォッチャーの第一人者・福島香織氏が、コロナショックを経て新たなフェーズに突入するかの隣国の脅威を語る。

※本記事は、福島香織:著『新型コロナ、香港、台湾、世界は習近平を許さない』(ワニブックス刊)より、一部を抜粋編集したものです。

中国のプロパガンダに加担するWHO

2020年4月中旬段階で、新型コロナウイルスは世界185カ国・地域に200万人以上の感染者を出し、12万8000人以上が死亡するパンデミックを引き起こしました。

米国をはじめ、このパンデミックの責任は中国にあると思っている国は多々あることでしょう。ですが、WHOなどの機関や一部のチャイナマネーに汚染されている国は、いろいろ中国に忖度して、それを言いません。

WHOのテドロス・アダノム事務局長はエチオピア人。エチオピアといえば、海外からの投資の6割を中国が占めており、チャイナマネー漬けが顕著なことでも知られています。そのせいもあって、国際社会の目からは、WHOは当初から中国に都合のよいアナウンスばかりしているように映っています。

▲WHO事務局長テドロス・アダノム

まずWHOは1月14日の段階で、いったん「人から人への感染の可能性がある」としておきながら、中国の要請によって「人から人への感染の証拠はない」と言い直しました。15日に「一定の限度で人から人への感染がある」と言い直すも、19日まで「人から人への持続的な感染拡大がある証拠はない」としてきました。

中国は1月20日になって初めて、人から人への感染を認めるわけですが、実は中国内部では12月の最初の患者が金銀潭病院に入院した段階で家族内の人から人への感染の可能性が疑われ、1月にはその確証を得ていました。それなのに19日まで噓をつき通したのです。

国際社会は感染症対策の基準としてWHOの判断を重視していましたが、WHOは中国が武漢の都市封鎖に踏み切った23日の段階になっても、現場を見ないまま、非常事態宣言を見送ります。

感染が18カ国に広がった1月30日になって、一応、危機レベルを最高ランクに引き上げるのですが、「(中国の防疫措置のおかげで)中国以外の地域での死亡例はない。このことで中国は感嘆と尊重に値する。我々は中国の透明性と世界の人々を守るという意思についてまったく疑っていない」として、中国の情報隠蔽を否定し、擁護していました。

2月24日、WHOの専門家チームは中国の専門家チームとともに現場視察をしましたが、その後の記者会見で、WHOの事務局長補のエイルワードは、「中国の感染ピークはすでに過ぎ去った」「中国のとった措置は空前絶後で、先見性に富んだ柔軟なものだ」として、その強権的都市封鎖を大絶賛しました。それどころか「もし私が新型コロナウイルスに罹患したら、中国で治療を受けたい」とまで言いました。

3月12日になって、ようやく中国から世界流行(パンデミック)が始まったことを認めるわけですが、それは習近平が3月11日に感染発生後、初めて武漢視察を行ったあとのことで、あたかも中国の感染状況が落ち着いたタイミングを狙ったようでもありました。

WHOの判断を尊重した日本は…

実際、13日のWHOの記者会見では、「パンデミックの震源は欧州」と発言し、中国の感染はすでに鎮静化しており、欧州から世界にパンデミックを広げたような印象操作をしたように思われました。

おりしも中国は米国からのパンデミックの責任追及説をかわすために、中国以外の地域からウイルスが持ち込まれたというような説を言い始めていたのですが、WHOはまるでこれに加担するような言動をしています。

中国は3月8日までにWHOに2000万ドルの寄付金を表明しましたが、そのあとのWHOの中国への忖度ぶりは、あまりにもあからさまではないでしょうか。

▲スイス・ジュネーヴにあるWHO本部

日本はWHOの判断を尊重し、中国からの渡航制限措置のタイミングがずいぶん遅れてしまいました。また東京五輪が予定通り行われるかいなかも、WHOの判断に任されると言いました。

チャイナマネーによって堕落し、中国の情報隠蔽や対応の遅れの責任をきちんと追及できないようなWHOに、世界の人々の健康と安全を任せていることの危険性を日本はきちんと認識する必要があるでしょう。