台湾の蔡英文政権が2期目となり、中国依存から脱却し国際社会からも承認を得ようとしている。また中国は米国に情報戦をしかけるなど国際社会は混沌としてきた。そこで中国ウォッチャーの第一人者・福島香織氏に話を聞いた。
※本記事は、福島香織:著『新型コロナ、香港、台湾、世界は習近平を許さない』(ワニブックス:刊)より一部を抜粋編集したものです。
国際社会からの承認を狙う蔡英文政権2期目
台湾が新型コロナウイルス対策で果断な政策を実施できたのは、蔡英文政権がここにきて、台湾の親中派財界や大陸世論を一切忖度しなくてよいほど、台湾社会の反中感情が高まったせいもあります。
蔡英文政権が、再選後最初に受けた海外メディアの英BBCのインタビューで、台湾について「すでに独立している」と発言したことからも想像できるように、蔡英文政権2期目のテーマは台湾の国際社会における国家承認の推進です。
こうした方向性は、中国側から武力恫喝と経済制裁を伴う強い圧力を受けると想像されていました。武力に関しては、中国側もなかなか実際の行動はとらないとしても、台湾と中国の長年の経済緊密化のせいで、中国からの経済制裁はかなり台湾経済に強い打撃を与えると予想されていたのです。
幸か不幸か、新型コロナウイルスという突然の疫病蔓延で、台湾だけでなく世界各国で中国との人的交流、物流の制限が否応なくかけられることになりました。中国だけに対してやっているのではない、という言い訳が台湾には可能となりました。
2月10日は中国が全国の工場再稼働を号令した日でしたが、台湾はこれに合わせて、中国との直行便について北京・上海など5空港を除き全面一時停止措置をとり、海運交通なども大幅制限をかけたのです。これは中国に工場を持つ台湾企業の社員や、中国工場で働く台湾人労働者の足止めにもなります。
台湾企業としては、早々に中国に戻って工場を再稼働させたかったかもしれません。ですが「両岸の人民に感染を拡大させないため」との建前を言われれば、従わざるをえないでしょう。
一方、総統選挙の動きのなかで、完全に中国共産党の代理政党に落ちぶれていることが発覚した国民党も、親中路線からの脱却をはかろうとしています。
中共の言いなりだった呉敦義が選挙惨敗の責任をとって辞任したあと、立法委員の江啓臣が主席になりましたが、台湾ファースト、脱中国イメージを訴えています。
親中派イメージが強かった鴻海集団創始者で実業家の郭台銘は、旧暦の年末の宴会の席で「2020年は米国を目指す」として、米国への投資を強化する姿勢を打ち出しました。
台湾次期副総統の頼清徳が2月上旬に訪米した際には、トランプ大統領も出席する朝食会に参加するなど破格の待遇を受けましたが、これを米台FTAのステップとしてみる向きもあり、もしこの方向性で進むならば台湾の中国経済依存脱却は、新型コロナウイルスの後押しもあって、比較的スムーズにいくかもしれません。
台湾では2月中旬、初の死亡例が出て以降、北部医療機関を中心に院内感染と思われる状況も発生し、予断を許さない状況が続きました。ですが、うまくその危機を乗り越えました。
対新型コロナウイルス対応で自信を深めた蔡英文が、台湾の国家観について踏み込んだ発言をする可能性も出てくるでしょう。それは新たな国際秩序の再構築のプロセスの始まりにつながるかもしれません。
ただし、それには中国が今、新型コロナを巡って仕掛けている情報戦とプロパガンダに、国際社会が騙されず、パンデミックを引き起こした習近平に対して、その責任を問う姿勢が重要になってきます。