眠れてます? 眠れてませんか。では、睡眠薬

ひなた 「つまり、うつだと言われて患者さんが納得するから、うつだということですか?」

亀仙人 「わかりやすく言うと、そういうこと。心療内科のクリニックって、たいてい駅から徒歩数分圏内にあるよね。どうしてだかわかる?」

ひなた 「それは、サラリーマンやOLが通いやすいからじゃないでしょうか」

亀仙人 「そんな駅から徒歩数分の立地で、有資格者を数人抱えて、クリニックを維持していこうとすると……どう?」

ひなた 「かなりの経費がかかりますね」

亀仙人 「そう、最低でも1日30人、多少の蓄えでもつくろうと思えば40人以上の患者さんが必要だと言われてるんだ」

ひなた 「1日8時間診察したとして、480分だから、1人あたり12~16分ですね」

亀仙人 「さすが、計算が速い! だから、15分程度の診察が横行することになる」

亀仙人 「経過を診るような、短時間で済ますことのできる患者さんに対してはそれでいいんだよ。でも、臨床心理士などのカウンセラーもいないのに、初診を15分診療で片づけて薬だけ出すようなクリニックは絶対ダメなんだ」

亀仙人は眉間にシワを寄せて力説します。

亀仙人 「患者さんであふれているクリニックを見ると、流行っているからいいクリニックだろうって、みんな完全に誤解するよね」

ひなた 「そりゃ、混んでるほうが人気があるから、安心だと思いますよね」

亀仙人 「何を言ってるの?」

ひなた 「え!?」

亀仙人 「クリニックは、飲食店と違うからね」

この瞬間、場の空気が少し変わったのを私は感じました。重たい感じではなく、身が引き締まるような緊張感が走ります。

「寛解状態(※4)まで持っていこうと思うと、時間をかけて診察しないと正しい病名がわからない場合が多いし、患者さんにはちょっと苦しい思いや努力をしてもらい、自らの病気を“征圧”するという意志を持ってもらう必要もある」

※4 「寛解状態」とは、治癒や完治と違い、病気による症状が好転もしくはほぼ消失し、医学的にコントロールされた状態のことを指します。 心療内科の世界では、社会的な活動にほとんど影響されない程度にまでよくなった状態のことで、場合によっては再発する可能性もあるため、寛解後も治療を続けるケースもあります。 寛解のためには、病気の特性を理解すること、人生を振り返りながら病気を悪くするような自分のクセや特徴に気づき対処を工夫すること、それに飲んでいる薬の名前や作用・副作用を知るといった、疾病教育や心理教育、服薬指導が必要だと亀仙人は言います。

亀仙人のあまりの迫力に、私は言葉が出ません。

すると突然、亀仙人は落語家のように一人二役で話しはじめます。

亀仙人 「うつっぽい? たしかに、うつですね。では、抗うつ薬」

ひなた 「……」

亀仙人 「眠れてます? 眠れてませんか。では、睡眠薬」

▲眠れてます? 眠れてませんか。では、睡眠薬 イメージ:PIXTA

急な展開に、ポカンとしたままの私です。

亀仙人 「こんな具合では、クリニックが薬を飲むきっかけにしかならない」

亀仙人の独り芝居のトークは、キレ芸人風なスタイルに変わりながら続きます。

亀仙人 「そんなの、クリニックではなく薬の自動販売機だね」

ひなた 「それは言い過ぎじゃないですか」

亀仙人 「いや、そういったクリニックが横行している現状を、なんとかしないと」

いつの間にか亀仙人の頭上からは、機関車のように湯気が立ち上っています。


『「薬に頼らず、うつを治す方法」を、聞いてみた』は次回9/10(木)更新予定です、お楽しみに。

※本記事は、亀廣聡・夏川立也:著『復職後再発率ゼロの心療内科の先生に「薬に頼らず、うつを治す方法」を聞いてみました』(日本実業出版社:刊)より一部を抜粋編集したものです。