やりたいことをやって「今」を生きる
ク作家さんに大きな変化が訪れたのは、その後でした。自分の目から光が消える前に、やらなければいけないこと、やりたいことが、溢れ出てきたのです!
作家としてのロマンだった「アトリエ」をつくり、母のためにはじめてスープをつくり、きらきらと星が降り注ぐ夜の海で、なんとイルカと泳いだり! 離れていた友人とも再会して抱きしめあいました。
まさに毎日が、かけがえのない“プレゼント”。
それから一人で映画館へ行き、夜の光り輝くネオンを見て、肌寒い夜明け前に起き出して、まぶしい朝日を見たのです。
彼女は、不安に押しつぶされるのではなく「今」を生きることに決めたのですから。
一日一日を大切に。だから、やりたいことを残しておく
「1日、1時間、1分、1秒……時計を見るのが嫌になる日もあります。自分に残された時間がどんどん消えていくような気がして。それでも、今はもう悲しくありません。わたしにはまだ希望がのこっているから」。
そう、彼女は残された時間で、一つずつ願いを叶えていくことにしたんです。セルフウェディングフォトを撮る、家族旅行に行く、心が傷ついている人とフリーハグをする、他人に大きな喜びをもたらす仕事をする、なつかしい鳳仙花のマニキュアをする、絵本作家としてボローニャ国際児童図書賞に挑戦する……などなど!
そして、彼女はこう言うんです。
「視覚と聴覚の両方を失ったとしても、触覚と嗅覚を使って陶芸作品をつくったら、わたしが感じたままの、生きているという感覚がそのまま詰まった面白い作品ができるでしょうね」
「手のひらで色を塗れば、悲しい感情も、嬉しい感情も、今よりもっと上手に表現できるんじゃないかしら」
「手話で会話ができたら、言葉でするのよりもっと美しい話を交わせると思います!」
そして「聴覚を失い、視覚を失っても匂いをかぐことはできます。世の中にはまだ素敵な香りがあって、わたしにはまだ多くの感覚が残っています」と。
「だから、わたしはこれからもずっと幸せだと思います。感じ続けることのできる感覚がまだ生きているから。」
ク作家さんは、目が見えるうちにやりたいこと“バケットリスト”30個のうち、わざと5個を空白にしているといいます。
なぜなら「あとで本当にやりたいことができたら、書き込もうと思って。一日一日がとても大切だから、本当にやりたいことを残しておこうと思うから」
あなたには、いまやりたいことはありますか? 大事にしたいことはありますか? もし、いま絶望の淵にあったとしても、視覚と聴覚を失いつつあっても希望を失わない彼女のように、ぜひ「今日」という一日を大切にしてみてください。
なぜって? あなたの今日がどんな日であろうと「それでも、素敵な一日」だからです!
※本記事は、WANI BOOKOUT <https://www.wanibookout.com/>[特集]話題本ピックアップ (2020年6月17日)「それでも、素敵な一日」を加筆編集したものです。