2歳のときに熱病で聴覚を失い、“聞こえない”自分のかわりに生み出したウサギのキャラクター「ベニー」を通じて、たくさんの人に希望を与えてきたのが韓国在住のイラストレーター・ク作家さん。
ところが、そんな彼女にさらなる試練が……。なんと、網膜色素変性症にかかっていることが判明し、イラストレーターとしてもっとも大切な「視力」を失う可能性が出てきたのです。
「わたしにとって絶対になくてはならない、一番大切な目をどうして取り上げようとするの? どうしてわたしのものばかり奪っていくの?」
音のない世界で生きてきた彼女が、さらなる絶望の淵に立たされるも「わたしはこれからもずっと幸せだと思います」と、光までも消えた世界を“生きる準備”をする生きざまを、心温まるイラストとやさしいエッセイで綴る『それでも、素敵な一日』(小社刊)は、2015年に韓国で発売されると、あっという間に販売部数13万部を超えるヒットとなった、感動のノンフィクションストーリー。
さて、彼女の抱える重く暗い闇は、いったいどのようにして、まぶしい光へと変貌していったのでしょうか?
初雪が気づかせてくれた「当たり前の大切さ」
ク作家さんが、網膜色素変性症にかかっていることが判明したあと、家でひとりソファに座る母親を何気なくみたとき、思わず口から漏れた「お母さん……ごめんね……」という言葉は、境遇は違えど、どこか「大人」になりきれない私たちの日常にも繋がるようで、思わず胸が痛みます。
「もう子どもじゃない、すっかり大きくなった娘。今度はわたしが親孝行する番なのに耳ははなから聞こえず、目もそのうちみえなくなり……。暗黒の中でわたしは もしかしたら、一生母に面倒を見てもらって生きていくのかも。とても申し訳なくて、悲しくなりました。止めどなく涙があふれました。」
次の朝、一晩泣きはらした目で起きた彼女が、窓の外に見たものは、なんと初雪!
その初雪の美しさに心を打たれた彼女は、これまで一度もちゃんと初雪を見たことがなかったことに気づきます。なぜなら「今までなにかを見るということは、ただ当たり前のことだったから……」。
「そうだ、今日から自分のために……これからの時間は幸せに生きてみよう。後悔のないよう……。目が見えなくなっても未練が残らないように生きよう」