コロナの感染拡大により、特にダメージが大きいのは飲食業界だろう。そんな中で、飲食店ビジネスを志す人は少ないかもしれないが、おうち時間で料理に目覚めた人に警鐘を鳴らす意味も込めて、人気ラーメン屋の店主でもあるプロレスラー・川田利明さんの厳しい体験を紹介する。
※本記事は、川田利明:著『「してはいけない」逆説ビジネス学』(ワニブックス:刊)より、一部を抜粋編集したものです
料理自慢の人、他人の褒め言葉には注意!
ラーメン屋を開業しようと考えている人は、少なからず料理に自信のあるんだと思う。友達に食べてもらったら大絶賛され「もうプロになっちゃったほうがいいよ!」と言われて、その気になってしまったような人もいるだろう。
ハッキリ言って、そういうパターンの人こそ、本当はラーメン屋になってはいけない、と俺は思っている。
これは飲食店に限った話ではなく、友人や知り合いが「プロを目指したほうがいい」なんて言うのを、そもそも真に受けてはいけない。こんなに無責任な発言はないし、言ったほうは何日かしたら、そんなことすっかり忘れているから、店をオープンしたところで、客として来てくれるかすら怪しいと思う。
じゃあ、本当のプロから「君は店を出したほうがいい」と言われたら信じてもいいのか、という話になるけれど、本当にすごい腕前だと感じていたら、わざわざ「商売敵」を作るようなことはしないだろうから、そんなことはお世辞でも絶対に言わない。
俺の下で働かないか、とスカウトされたら話は別だが、とにかく周りの声に影響されて「ラーメン屋になろう」と考えている人は、ちょっと考え直したほうがいい。素人の料理自慢と、プロの料理人は似ているようで、まったく違う。
あなたが作った料理を、友達が喜んで食べてくれた?
それは当たり前のことだ。「無料」で食べさせてもらえるのだから、誰だって喜んで美味しそうに食べてくれるよ。
人間関係だってあるから、さすがに面と向かって「あんまりおいしくないね」とも言えないし、残したら失礼だから、みんな綺麗に完食してくれる。
作った側からしたら、もうそれだけで嬉しくなってしまうけど、あくまでも友人の「気遣い」や「忖度」でしかない。
「美味しいね」よりも上の褒め言葉を探したら「もうプロ顔負けだね」になるし、最上級の誉め言葉は「もうプロになっちゃえば」になる。これって本当に無責任だし、本当に罪なひとことだと思うよ。
プロの仕事には予算も時間にも制限がある
でもラーメン屋は、自分で「やろう!」となったら、開店資金さえあれば、すぐになれてしまう。味付けだってオリジナルでいいわけでだから、どんどん参入してきては、アッという間に撤退する……という悲劇が繰り返されてしまうのだ。
友達に大絶賛されて、その気になっている人は、いっぺん「1人1000円ずつ徴収します」と言って、もう一度、食べてもらったほうがいい。きっと、多くの友達が「ちょっと、その日は都合が悪い」と遠回しに断ってくるだろうし、来てくれた友達の感想も辛口のものになってくるんじゃないかな。そういう「本当の感想」を聞いてから、自分の進む道を決めたって遅くはないと思う。
もうひとつ、素人の料理自慢が作ったものが大絶賛される理由がある。
それは儲けなどを考えていないから、際限なく食材にお金をかけられるからだ。ここぞとばかりに張り切って、デパートの地下で高い肉を買ってきているだろうから、予算の上限もなく、高級食材をバンバン使って作れば、誰が作っても美味しい料理になる。
お店で出そうとしたら、それこそ2000円とか3000円の値段をつけないとペイできないような料理を出したら、みんな「美味い!」というだろうし、そうならないほうが逆におかしい。それを700~800円で、お客さんに提供できるような予算で収めようとしたら、そんな味は出せなくなる。
日曜日に友達を集めて料理を振る舞うために、土曜日をまるまる一日使って、がっつり下ごしらえして、準備万端にするんだろうけど、毎日営業するとなれば、そんな贅沢な時間の使い方も、当たり前のことだけどできない。
予算にも時間にも制限がある中で、おいしいものを作るのがプロの仕事だ。
それは本当にしんどいことだし、そんな思いをするぐらいだったら「プロになったほうがいいよ!」とちやほやされながら、料理自慢の素人として、趣味で厨房に立っているほうが確実に幸せだと思う。