コロナの感染拡大により、特にダメージが大きいのは飲食業界だろう。そんな状況下の中でいかに生き残っていくべきか? 元プロレスラーで、墨田区立花で人気ステーキハウス『ミスターデンジャー』を経営する松永光弘さん。ここではプロレスファンなら涙する、知られざるエピソードを紹介しよう。

家賃が安かったのでコロナ禍も乗り越えられた

――プロレスラーというか、スポーツ選手がセカンドキャリアとして飲食店経営に乗り出すケースは少なくありませんが、成功するケースは決して多いとは言えません。その中で『ミスターデンジャー』がオープンから24年目に突入した、というのは驚異的な話です!

松永 まさか、こんなに続くとは自分でも思っていなかったですよ。みなさん『東あずま駅』と言ってもピンと来ないですよね?

――失礼ながら、そうですね。『ミスターデンジャー』の最寄り駅なんですが、この店に来るまで知りませんでした。

松永 普通、スポーツ選手が店を出すとなったら、新宿とか六本木のような華やかな街じゃないですか? 「俺だけ、こんな誰も知らないような場所でカッコ悪いな」とも最初は思ったし、人通りもそんなに多くないので「本当に商売が成り立つのかな」という不安もありました。でも、今回のコロナショックで「あぁ、この場所でよかったんだ」と改めて思いましたね。

――どういう意味でですか?

松永 ニュースを見ていると、繁華街でお店をやっている人たちが「店を閉めても家賃は払わなくちゃいけないからキツい」と話している映像が流れている。その金額がそれこそ100万円単位なんですよね。そりゃ、厳しいですよ。ウチは家賃が安くて助かった。立地は良くないかもしれないけど、家賃の面では救われましたね。

▲決して恵まれた立地条件ではないが、それを逆手に取った戦術も

――先月末に発売された新刊〔『デスマッチよりも危険な飲食店経営の真実』(小社刊)〕では、その家賃の金額まで赤裸々に書かれています。いや、本当にびっくりするぐらい、いろんな金額が明確に書かれていますよね。

松永 別にワニブックスさんから「すべて赤裸々に書いてくれ!」とは頼まれていないのに、勝手に書いてしまいました(笑)。別に隠すことでもないと思うし「これから飲食ビジネスをやろうと考えている人も、この本を読むかもしれない」と言われたので。変にボカして書いたら、なんの参考にもならないじゃないですか?

――出版社としてはありがたい話です! でも、飲食店をやりたいと思っているプロレスラーの方から直接、相談を受けたりもするんじゃないですか?

松永 いや、それがそんなにないんですよ。ひょっとしたら、そういう相談をするために店にやってきたけれども、言い出せなくて、そのままステーキだけ食べて帰ったレスラーの方もいるかもしれないですね。私が働いている姿を見たら「あぁ、これはできないな」と思った人も多いんじゃないかな。

――黙々と立ちっぱなしでステーキを焼き続ける姿は、たしかにスポットライトを浴びてきた人間にとっては地味に映ります。それを何時間も、そして毎日やり続けると考えたら、たしかに躊躇してしまうかもしれませんね。