プロレスラーの川田利明さんは、2010年に東京都世田谷区に『麺ジャラスK』をオープンさせ今年で10年目を迎えた。飲食店ビジネスでも新規参入組が桁違いに多いラーメン市場で戦い続け、長年の経験から得たリアルな経営哲学のなかから、インターネットを中心とした「ラベリング」の効果とその危険性を語る。

※本記事は、川田利明:著『「してはいけない」逆説ビジネス学』(ワニブックス刊)より、一部を抜粋編集したものです。

インターネットは味の感じ方まで変えてしまった

あなたは「ラベリング効果」という言葉を知っていますか?

実はこの言葉こそ、昨今のラーメン屋、いや飲食業界において、もっとも重要なキーワードになってきている。

簡単に説明すると、こうだ。

「あのラーメン屋は美味しいらしい」
「有名なモデルさんがよく通っているそうだ」
「有名なグルメサイトで星3つだって」

こういう話を何度も聞いていると、まだ食べたこともないのに、頭の中に「美味しい」という印象が貼りついてしまう。

実際にその店に行くと、ものすごく行列ができている。

その行列を見たことで、さらに有難さが増し、実際に長時間、並んで入店したことで、より「美味しい」という感情がアップする。そうやって、食べてもいないうちに「美味しい」が刷り込まれることで、いざ、ラーメンを食べた時に「あぁ、ものすごく美味しい!」となってしまうわけだ。

ちょっと専門的に言うと、周囲からの「ラベリング」「レッテル貼り」によって評価が生み出されるもので、「ラベリング理論」とも言うそうだ。この効果については、いろいろな人が研究していて「飲食店にとって、もっとも大事なのはラベリング効果。味覚は1割もない」とまで言う専門家までいる。

美味しいと感じる要素の9割はほかにあって、味覚は1割と言われてしまったら、俺はなんのために一生懸命、下味をつけたり、仕込みをやったりしているんだろう、と虚しさすら覚えてしまった。

これから起業するならラベリング戦略も必要

ある専門家は実験もした、という。美味しいと噂のラーメンを目隠しして食べてもらったら、今まで絶賛していた人たちが「味がわからない」と困惑したそうだ。

やっぱり味覚は1割しかなくて、周りから得た情報が大多数を占め、そこに視覚が加わって「美味しい」という感覚ができあがっていることがわかる実験結果だ。今は、インターネットの普及で、味の感じ方まで変わってしまったのだ。

今、大流行しているタピオカなんて、その代表格だろう。タピオカ自体、そもそも味なんてそんなにない食品だし、過去に何度かブームみたいなものが起きてはすぐに沈静化していたのに、ここにきて、中期的なブームが続いているのは「インスタ映え」に若いお客さんが飛びついたからだ。

店舗側もこのラベリング効果に気がついて、もう味は二の次。どうやって盛りつければ、どういう容器で提供すれば、よりインスタ映えするのかを徹底的に研究し、結果、そういう努力をした店が激戦区で勝ち残っているという。

ウチの場合は本当に美味しいもの、インパクトがあるほどボリュームがあるメニューを提供して、それを素直に「美味い!」「でかい!」とお客さんが拡散してくれることを待っているだけ。自分から仕掛けることはなかなかできない。むしろ、これから起業する人が、オープン前からラベリング戦略を練って仕掛けたら、ちょっと面白いことになるかもしれない。ぜひ気にかけておいてください。