ドラマ『愛の不時着』で描かれる北朝鮮の暮らしはインパクトが強い。村では頻繁に停電が起き、人々はローソクの明かりで夜を過ごす。家庭のキッチンにコンロはなく、炭でおこした火で料理する。かと思えば、都会の人はスマホを使い、自動車を乗りまわすーー。いったい、どこまでが「リアル」なのだろう? 外からは見えにくい北朝鮮の庶民の生活について、研究者に話を聞いた。
再び盛り上がる韓国ドラマブーム
韓国の財閥令嬢がアクシデントによって、意図せず北朝鮮に侵入してしまうーー。『愛の不時着』は、そこから始まる男女の恋愛を描いた韓国ドラマだ。日本では2020年2月にNetflixで配信開始以降、ランキングの上位にいる人気作品だ。
ドラマでは、韓国の女性ユン・セリが初めて見る北朝鮮で暮らす庶民の姿に、衝撃を受ける場面が描かれている。北朝鮮の小さな農村では、いまだ牛車が使われており、子どもたちは合唱しながら登校、親たちは早朝から妙な体操をしているのだ。
こうした暮らしぶりについて解説してくれたのは、北朝鮮の庶民生活を研究するとともに、実際に北朝鮮を訪れて、生活グッズを収集してきた「宮塚コリア研究所」(山梨県甲府市)の代表・宮塚利雄さんと、娘で副代表の宮塚寿美子さんだ。
北朝鮮の言葉は「東北弁」のような感じ
まずは、韓国と北朝鮮の言語の違いについて聞いた。どちらの国でも朝鮮語が使われているが『愛の不時着』では、北朝鮮の人々がセリの言葉遣いを指摘する場面があった。
「韓国のソウルで話される言葉が標準語だとしたら、北朝鮮の言葉は東北弁のような感じでしょうか」と副代表の寿美子さん。「他にも文法が少し違っていたり、単語の異なるもの、たとえば〈タコ〉と〈イカ〉を指す言葉が逆だったりします」とのこと。
韓国への留学経験がある宮塚代表は、北朝鮮を訪れた際に、現地の人に「お前の言葉は南朝鮮(韓国)の話し方だ。二言(こと)聞けばわかる」と言われたという。朝鮮語圏の人たちにとっては、それほどの違いがあるようだ。
当然、文化も異なってくる。『愛の不時着』第1話では、韓国育ちのセリが北朝鮮の人々が早朝から踊る体操に目を見張る。
これは「律動体操」と呼ばれる体操で、1993年に金正日総書記(金正恩労働党委員長の父)の発令によって広められた北朝鮮独自のもの。ゆえに韓国にはない。体操とダンスを融合させたようなコミカルな動きが特徴だ。その様子は、福岡朝鮮歌舞団が投稿した動画などで見られる。
〇福岡朝鮮歌舞団の動画
律動体操には「幼稚園」「少年」「大衆」「老人」の4種類があり、ドラマでは最もポピュラーな「大衆律動体操」が使われたようだ。
「朝のラジオ体操のように万民に知られているもので、工場などでは始業時にすることもあります。動きは奇妙に映るかも知れないが、身体にはよく、基礎体力の向上に役立っている」と副代表の寿美子さんはいう。