茂木健一郎さん(57歳)にとっての人生の「土壇場」は……「松本人志さん事件に尽きる」という。その“事件”は2017年に起きた。茂木さんがTwitterで「日本のお笑いはオワコン」とつぶやいたとして、ネットで炎上したのだ。茂木さんはいくつかのTV番組に呼ばれ、自身で釈明するハメになった。なぜそんな「つぶやき」をしたのか、茂木さんに話を聞いてみた。

自分のツイートが注目されるとは思っていなかった

茂木さんが炎上するきっかけとなった「つぶやき」は、日本のお笑い界を牽引するダウンタウン・松本人志さんの耳にも届いた。

「トランプやバノンは無茶苦茶だが、SNLを始めとするレイトショーでコメディアンたちが徹底抗戦し、視聴者数もうなぎのぼりの様子に胸が熱くなる。一方、日本のお笑い芸人たちは、上下関係や空気を読んだ笑いに終止し、権力者に批評の目を向けた笑いは皆無。後者が支配する地上波テレビはオワコン。」

文中の「SNL」とは、アメリカのバラエティ番組「サタデー・ナイト・ライブ(Saturday Night Live)」のこと。エディ・マーフィ、アダム・サンドラーら著名なコメディアンを数多く輩出してきた人気番組で、時事ネタや政治ネタを扱うことも多い。

茂木さんは、そんなアメリカの状況に比べ、日本のテレビでの「お笑い」には、権力者を批判したりパロディ化したりするものがなく、ゆえに「オワコン(=すでに終わったコンテンツ)」だと評したのだ。これが「茂木は『日本のお笑いはオワコンだ』だと言っている」と解釈されて拡散。いわゆる「炎上」となった。

「そもそも自分のツイートが、そんなに注目されるとは思っていなかった」という茂木さんにとって、まさに青天の霹靂(へきれき)だった。

「それまでもテレビなどで、お笑い芸人さんと共演していて、みんな『頭がモジャモジャな、気のいい脳科学者がいるな』って見てくれていたのが、突然『自分たちのお笑いはオワコンだって言いやがった』みたいな雰囲気になりました」と、当時を振り返る。

「松本人志さんには、番組(『ワイドナショー』)で『茂木さんには笑いのセンスがまったくないから、ムカっともこない』というようなことまで言われて。総攻撃を受けたっていうのが苦しかったですね」

▲“事件”後に松本人志さんと鉢合わせし焦った場面もあったという