実は脳科学界からも「ハブられた」
茂木さんには、脳科学者としても「ハブられた」経験があるという。
「ちょうど今年『クオリアと人工意識』って本を書き下ろしたんです。実はその『クオリア』を研究テーマにしたことで、僕は脳科学界からハブられたんです」
話は20年ほど前に遡り、茂木さんが35歳の頃。イギリスに留学していた茂木さんは、日本での学会にTシャツ&ジーンズ姿で登壇した。「脳科学者はお医者さんが多くて、みんなスーツを着てネクタイをしているんですけどね」。
そこで持論を述べたのだ。「『クオリア』という問題があって、意識が大事で『それを研究していない君たちはバカだ』みたいなことを1時間くらいしゃべったんです」。著名な医学博士・伊藤正男氏のもとで、順調にステップアップしていた茂木さんは、このとき「学会から追放された感じ」になったという。
「表現の仕方を、ときどき間違えちゃうんですね」という茂木さんは、自身のコミュニケーション方法を「ビーフ」のようなものだと捉えている。「ビーフ」とは、ヒップホップの世界でラッパーが楽曲を通じて相手と攻撃し合うことをいう。そこには「楽曲を通す」という一定のルールがある。
茂木さんとしては、日本のお笑いや脳科学界を「応援したい」「盛り上げたい」という思いが「ディス(批判)」になってしまうのだ。
「これは『日本で破壊的なイノベーションを、どうすれば起こせるのか』という問題につながる気がしていて。僕は、日本のお笑い界でもイノベーションが起こせるんじゃないかと思って、提案したつもりだったんです。でも『いや、俺たちは今までのやり方でいいんだ』って言われてしまった。これって意外と、日本のいろんな業界で起こってるのかな、と」。茂木さんはタクシー業界におけるUberの存在や、ホテル業界とAirbnbの関係を例にあげる。
「僕はいつもそうして失敗するんです。よかれと思って。僕は、私憤で動くってことがまずなくて、自分の利益のために何か言うってことも、あんまりないんです」
たびたび「炎上」を経験しながら、なぜ、へこたれずにいられるのか? 茂木さんに問いかけると、次のような返事があった。
「すごく少人数だけど大事な仲間がいて、彼らと価値観を共有しているから、それが大きいんでしょう。日本だと恫喝というか、世の中のやり方に負けちゃう人がわりと多いですよね。でも僕は、意外と気にしないで生きていられる。東大の池上高志っていう複雑系の研究をしているヤツとか、サイエンスライターの竹内薫、お笑いでいうとウーマンラッシュアワーの村本大輔、彼らの友情に支えられている気がします。仲間を持つことが大事なんでしょうね、“土壇場”には」