こんにちは!

東京とL.A.を行ったりきたりしながら、ディレクション、プロデュースの仕事をしています。風野又二朗です。

前回の連載で、突然幻想の中からカゼノマタジロウさんが現れまして、このままL.A.と東京の文化の違いについて書いているだけでいいのかい?という、夢か幻かご指摘を頂きました。

ちょうどその頃、私、風野又二朗も、この激動の2020年、日本のエンターテイメントの最前線で、現場では何が起きているのか、風野の目線でお伝えしたいなと思っていましたから、まさに渡りに舟なご指摘でございました。

カゼノマタジロウさんのお告げ(?)と、風野又二朗の思いが合致しまして、この連載は新たなフェーズに入ります。よろしくお願いします。

▲風をあつめて、巻き起こす

はい!という事で、9月からこの連載はリニューアルしまして、今、映画界で、演劇界で、音楽業界で、エンターテイメントの世界で、どんな工夫をしてこの難局を乗り越えようとしているのか、止めない為に、進める為に、今現場で起きているさまざまな『風を集めて』皆様にお届けして参りたいと思っています。

9月のゲストは、この方をお呼びしました。風野のプロデューサーとしての、マイメン(先輩)です。

高石明彦プロデューサーです。宜しくお願いします。

高石明彦
株式会社 The icon 所属のプロデューサー。バラエティ、ドキュメンタリーのディレクターを経て、現在は、さまざまな映画、ドラマのプロデュースを手がける。『あのコのトリコ』『CHEAT チート』『彼らを見ればわかること』『教場』など。映画『新聞記者』では、プロデューサーの他に脚本も執筆。

風野は8年ぐらい前に知り合いまして、そこから、プロデュースとは、デイレクションとはどういうものか、なんて話はそんなにしてこなかったのですが、風野が作った作品はちゃんと見て意見をくださったり、時に人生の相談に乗ってくれる、マイメン(先輩)です。野球が大好きで、お酒とご飯も大好きという共通点でよく盛り上がっています。

――高石さん、お忙しいところ本当にすみません。

いやいや、風野又二朗くんの頼みは断れないよ(笑) むしろ、この企画の1回目、僕でいいの?もっと違う人が良かったんじゃないの?

――ありがとうございます。いや、この企画は今のエンタメの最前線で戦っている人たちが、どういう思考で工夫をして、この難局と向かい合っているかを知っていく企画なので、ドラマ、映画、ネット配信など、多岐に渡るコンテンツを手掛けている高石さんじゃないとダメなんです。あと、1回目なんで相談しながら作れてお願いしやすい人がいいなと(笑)

僕でまずはテストケースを作るのね。風野くんらしいね(笑) お手柔らかに宜しくお願いします。

――まず、改めてお聞きしたいのですが、映像のプロデューサーってどういうお仕事なんですか?

そうですね。やる事が多岐に渡るので、それぞれ人によって、プロデューサーという考え方は違っても良いんじゃないかと思うんですけど、簡単に言うと映像を使った商品の管理責任者だと思います。まず企画があって、その企画をどう実現させて、お客さんに見て頂くか。その過程の中で、見てくださる人はもちろん、作っている人たちも幸せにしていく、という事を最後まで考えていく事が、映像プロデューサーとしての仕事かなと思っています。

――どういう流れで作品が作られていくのですか?そこで大切にしている事はありますか?

自分でやりたい事があって、企画書を書いて、お金を集めて製作していく場合もありますし、こういう企画があるから、これを料理してくれと頼まれる場合もあります。

ただ、僕のような制作プロダクションのプロデューサーは、お金を集めて自分の作りたい作品を作っていくだけではダメだと思っています。発注してくださる方々(TV局、映画の配給会社など)が欲しい作品を作れるか、見てくださるお客様が楽しんで頂けるものなのか、この2本の軸に、自分のやりたい事を加えて、三角形のバランスが取れているかを常に考えてます。どれか一つがずば抜けちゃっていると、うまくいかない。あくまで個人の経験値ですが。

企画を自ら立案する時は、2時間の方が見やすいと思ったら、単発のドラマで考えますし、暗闇の中で集中して見て頂きたいと思ったら映画として考えます。いやこれは、じっくり長く描いた方が、お客様に楽しんでもらえるのではないかとなれば連続ドラマとして企画する、そんな事を常に考えています。

――三角形のバランスですか、なるほど。ところで、なんで映像のプロデューサーという仕事に就く事になったんですか?

僕、大学生の頃までずっと野球をやっていたんですよ。ただ、野球をこの先の仕事にする事はできないなと思った時に、何をやれば良いのか分からなくなっちゃって。その時に【100問1答 適職診断テスト】っていうのを受けたんですね。そしたら、テレビプロデューサーって出たんです。

――え?そのテストでそう出たからプロデューサーになったんですか?

はい(笑) でも言われてみれば『同・級・生』や『あすなろ白書』とか大好きで見ていました。なので、よし、俺はドラマのプロデューサーになろう!と思って、その気持ちだけを持って、色々と就活をして制作会社に就職しました。

――そこでドラマプロデューサーとしての1歩を踏み始めたんですね。

いえ、ドラマの部署を希望していたのですが、まずバラエティの部署に配属になりました。初めはとてもストレスでしたね(笑) ドラマがやりたかったのに、という思いもありましたし、当時はまだかなり先輩達も厳しい時代でしたから。それでもどうしてもドラマがやりたくて、上司にお願いしたら「下積みを3年やってからだ!」って怒られました。でも3年後、その方が進言してくれて、バラエティ番組の中のドラマパートを担当させてもらえるようになりました。やっぱり楽しいなと思いました。と同時にびっくりもしました。たかだか5分とかのドラマを作るのに5~6時間もかかるのかと。でも、その時間はとても楽しいものでしたし、これがやりたいんだなと確信しました。

――ドラマの部署にはいつごろ行けたのですか?

その後は、ドキュメンタリーのディレクターをやり、流行り出したばかりのネットテレビで、劇団を作ったりアイドルをプロデュースしたり、色んな事をやりました。そんな時にドラマ部署の監督に、面白い事をやっているなとドラマの部署に誘って頂きました。会社に入って8年後です。しかし、今振り返ればバラエティをはじめ、色々やってきて良かったと思っています。

――そこから、数々の作品をプロデュースしてこられましたよね。特に昨年、かなり話題になりました映画『新聞記者』では、プロデュースの他に脚本にもクレジットされていました。このあたりの話を聞かせて頂いてもいいですか?

VAPという会社の行実プロデューサーが、エグゼクティブプロデューサーの河村さんと僕を引き合わせてくれて、企画の途中からこの作品に携わることになったんです。その時、まだ脚本家も監督もいなくて、撮影時期だけ決まっていて、材料も時間もなかった。奇跡的に詩森ろばさんがつかまってストーリーを書いて頂いたんです。とても素晴らしいオリジナリティを発揮して下さったのでまさに救世主でしたが、詩森さんは劇作家さんで、映画は初めてでした。さらに、緊急でお願いしていたので、ここからという時に、詩森さんの舞台の本番とこちらの執筆スケジュールが重なってしまい、書き手がいなくなったんです。撮影予定の約3ヶ月前です(笑)

シム・ウンギョンさん、松坂桃李さんをはじめ、実際に出演してくださったほとんどのキャストの方々には、企画の話だけはして脚本を待ってもらっていました。まだかまだかと突かれていました(笑) このままでは無くなると思って「僕が書きます!」と河村さんに言いました。半ばヤケクソです(笑) 撮影中の別作品を抜けて詩森さんと会話しながら1週間ほどで書いて、キャストに配布しました。限界まで待ちくたびれた皆さんに「面白い!」と言って頂けた時は、詩森さんと喜びを分かち合いました(笑) それだけギリギリでした。

プロデューサーというのは企画から考えますから、普段から脚本にも携わるんですけど、脚本にもクレジットされるのは、かっこ悪いというような風潮があるのは風野さんもご存知ですよね。ただ、この『新聞記者』という作品は、重厚かつチャレンジングなテーマだったので、書いているのにクレジットしないのは、隠れるみたいで嫌だったんですね。それで、今回は3人の共作という形でやらせて頂きました。その後、藤井道人監督が監督してくださることになり、演出する脚本としてブラッシュアップしてくださって、完成しました。

――そんな経緯があったんですね。思い出に残っているセリフ、シーンはありますか?

松坂桃李さんと本田翼さんのシーンで、携帯で破水した事を知らせるシーンがあるんですけど、あそこは自分と奥さんとの実体験です。奥さんには内緒で書きましたが、その後すぐにバレました( 笑)

とにかく、予算もスケジュールもギリギリでしたが、藤井監督をはじめ、スタッフの皆さんの情熱とアイディアでさまざまな苦難事を乗り越えましたし、シム・ウンギョンさんや松坂桃李さんを中心に、キャストの方々が個々の役割を全うして下さって、作品が立体的になりました。成立させることに必死でしたが、この作品が話題になった事はとても嬉しいです。

――なるほど。準備から撮影中も色々とあったんですね。お話ありがとうございます。さて、そこからも、今日に至るまで数々の作品を作られてきたと思うんですけど、今年は感染症で撮影が止まってしまうという、前代未聞の出来事が起きてしまいました。

はい。本当にびっくりしました。2月ごろから徐々に広がっていって、これどうすんだ?という状況になっていましたよね。僕はちょうど作品の準備中だったんですけど、テレビ局のプロデューサーと話し合って延期する事になりました。

――高石さん、すいません。僕が冒頭でどうしても映像のプロデューサーとは?という事を聞いてみたくて、文字数を使いすぎてしまいました。

え?風野くん、どういう事?緊急事態宣言中や今の撮影の現場で起きている事などを話すんじゃないの?

――すいません!ちょっと初めての試みでしたのでペース配分ができてませんでした。とっても気になるそのお話はじっくり聞きたいので、次回も引き続き、ゲストトークをお願いして良いですか?

え?良いんですか?大丈夫かな。分かりました。宜しくお願いします。

――高石プロデューサー、お忙しいところありがとうございました。次回も宜しくお願いします。

▲(取材中にもひっきりなしに携帯が鳴る高石プロデューサー)

今回の風野のオススメ映画は【新聞記者】です。国家の闇を暴こうとする女性新聞記者と、若手官僚の男性。二つの正義が交錯していく物語です。昨年の日本アカデミー賞では最優秀作品賞も受賞しました。見所は、本当にたっくさんありますが、特に田中哲司さんの目が怖い。あの目は夢に出てきそうで本当に怖いです。思い出すだけで恐ろしい。ぜひ、見てみてください。

今回から、リニューアルしました『風をあつめて、巻き起こす』どうでしたでしょうか?

新型コロナに色々巻き起こされちゃって悔しい世の中ですが、だったらこっちは、色んな風(才能ある人たち)を集めて楽しい事を巻き起こしてやるよ!コロナめ、見てろよ!という気持ちでございます。引き続き、宜しくお願いします。それでは、又、風の吹く日に。

『風をあつめて、巻き起こす』は次回9/18(金)更新予定です、お楽しみに。