自分の気持ちを表現できなかったり、要望を伝えられなかったり、緊張してコミュニケーションをとれなかったり。そのような状況は多くの人が経験していると思いますが、日常生活に支障が出てしまうほどになってしまうと「社交不安症」という病気と診断されます。その手前とされるのが「人見知り」です。“生まれつき”だからと諦めずに不安をコントロールする方法を、認知行動療法のスペシャリストである清水栄司氏が紹介します。
※本記事は、清水栄司:著『大人の人見知り』(ワニブックス:刊)より一部を抜粋編集したものです。
寝る前の5分間にポジティブなことを思いだす
人見知りの方は、どうしてもネガティブな面ばかりを見てしまいがちですが、練習次第でポジティブな出来事を見つけられるようになります。その結果、認知の偏りもバランスが良くなり人見知りも薄らいでいきます。
ポジティブ心理学を提唱したアメリカのマーティン・セリグマン教授は「3つの良いこと」(Three Good Things)として、寝る前に3つの良いことを書くと幸福度が高まる可能性を示しました。
私は3つの良いことをさらに、①できたこと②楽しかったこと③感謝することと分けて、小さな良いことを見つけてもらうようにしています。
このような3つのポジティブな出来事を見つける練習のことを「ポジティブな練習」、略して「ぽじれん」と呼んで、5分間でできる認知療法の心の健康づくりとして勧めています。
自分に優しくしてくれる人と会話する
「ぽじれん」とは、ポイントを貯めるような感覚で1日に小さな良いことを少なくとも1個、できれば3個ぐらい挙げて、紙に書き出すというもので、とても簡単なものです。
1日の終わりに「今日、何かいいことあった?」と自問し「何にもない」ではなく、どんな些細なことでもいいですから、絞り出せるようにします。
私が所属している千葉大が開発した小学校高学年向きの不安の認知行動療法プログラム『勇者の旅』では「ぽじれん」と似た方法で「できたこと(Mastery)」「楽しかったこと(Pleasure)」のふたつの良いこと(英語の頭文字をとって、MP法と認知療法で呼ばれています)を「ミラクル・ポイント」と呼んで、子どもに毎日、小さな良いことを見つけてもらっています。
「ぽじれん」を日々行うと「今日、人に会って、嫌なことを言われた」というネガティブな出来事ばかりを見るのではなく「今日あいさつをしてもらえた」といったようなポジティブな出来事を見つけられて、毎日が楽しくなります。
気心の知れた仲間と会ったり、お客さんに親切にしてくれる美容院やコンビニなどを回って、優しくしてもらうと「今日は優しく接してもらえた」「笑顔で店員さんと話せた」というミラクルポイントが、どんどん貯まっていきます。
そうすれば次の段階で、あまり知らない人に話しかけてみる勇気につながっていくのです。
できて当たり前のことを褒める
「ぽじれん」の基本的な考え方は、小さな幸せを見つけることです。次に自分を褒めてあげることも重要です。自分を褒めることができない人は褒める練習をしましょう。
ただし、自分に厳しい人は、自分を褒めたり、自分に優しくしたりすると、たがが外れて自分がどんどん堕落して駄目人間になってしまうのではないか、などと危惧することがあります。それは「全か無か思考」とか「一般化のし過ぎ」といった認知の歪みによるものでしょうから、人見知りの人はそこまで心配しなくて良いのです。
どんな小さなことでも、できたら褒める練習です。
例えば歯磨きをした後は「歯磨きをして偉い」と自分を褒めてあげましょう。散歩をした後は「散歩をして偉い」と自分を褒めてあげましょう。できて当たり前のことだから褒めない、というような思いこみは捨てましょう。