デモ鎮静化のために解放軍出動の選択肢も

これは上海協力機構首脳理事会合や、アジア相互協力信頼醸成措置会議(CICA)首脳会合などへの出席が目的で、対米貿易戦争に対抗するために、ロシア・中央アジアによる反米連合形成を、国際メディアを通じてアピールする予定でした。

ところが、ロシア外遊中に香港103万人デモが発生し、10日の国際主要メディアのトップニュースは、香港デモ一色でした。習近平は驚き、慌てて林鄭月娥の無能を批判したそうです。

反米連合のアピールどころか、米国が対中圧力に香港問題カードを振りかざし、低調だった台湾の蔡英文も、香港問題を追い風に正式な民進党総統候補の座を勝ち取って、習近平は苦境に立たされました。

焦る習近平に対して「冷静になれ」と言ったのが、ロシアのウラジーミル・プーチンだったとか。

▲ウラジーミル・プーチン 出典:ウィキメディア・コモンズ

CICA参加のために、ともにタジキスタン・ドゥシャンベ入りしていたプーチンは、6月15日の習近平の66歳の誕生日に、習近平のホテルの部屋を訪ね、アイスクリームをプレゼントし「条例改正事案を事実上撤回するべきだ」とアドバイスした、という笑い話のような情報が、党内で流れていました。

プーチンに言われたから、というのは一種の習近平を揶揄するジョークだとしても、習近平が15日にすぐに韓正(かんせい)と汪洋を通じて指示を出し、林鄭月娥に「条例改正案の審議延期」を発表させた、というのは本当のようです。

それでもデモは鎮静化しなかったので、中国側は「香港デモの方が理不尽にゴネている」という方向に、SNSの書き込みや親中派メディアなどを使って、世論誘導する作戦にでました。7月1日の立法会突入は、まさにそういうデモ隊の「やりすぎ」感の演出に利用されました。

ですが、デモを早く鎮静化させよ、と強いプレッシャーを受けた林鄭月娥が、警察の過剰な暴力によって鎮圧しようとしたため、依然、国際社会はデモ隊の若者の方に同情的でした。

こうして、デモがなかなか鎮静化できないどころか、むしろ勢いづいていることに危機感を覚えた党内では、解放軍出動の選択肢も含める意見が出てきたのが、7月の終わりごろです。

張暁明が「カラー革命」にたとえていることからも分かるように、党内ではこの一連の香港の問題の背後で、米国が糸を引いているとの疑いを持っていました。米中対立の延長として考えるならば、中国としても簡単には譲歩や妥協ができない、というわけです。

8月に入り中国では、北戴河会議〔党中央の長老・現役指導部による秘密会議:8月3日~14日〕が始まりました。この会議では、8月9日以前に、解放軍から党中央に対し提出された「反香港デモ暴動鎮圧軍事作戦書」をもとに、軍・武装警察出動支持派の保守派と、朱鎔基・曾慶紅・胡錦涛・温家宝ら反対派に分かれて、かなり激しい議論になったそうです。

▲河北省北戴河区 出典:ウィキペディア