2019年7月3日に香港入りした福島香織氏は、立法会議員の鄭松泰(チェン・チュンタイ)氏に対面インタビューを行いました。鄭松泰氏は2016年の立法会選挙で、選挙区枠で当選した議員です。“香港の本土派”と呼ばれる、香港基本法改正による香港の自決権確立を主張する比較的急進派政党・熱血公民の主席です。

政府権力の象徴の占拠は大きな“現状突破”

▲鄭松泰 出典:ウィキメディア・コモンズ

彼は1983年生まれで若いのですが、北京に留学経験があるエリートで、普通話も堪能です。彼は議員である傍ら、ネットラジオ局「熱血時報」のキャスターも務めるメディア人で、また香港理工大学応用社会科学部で、講師を務めたこともある教育者でもありました。

デモ隊が立法会に突入したとき、彼も一緒に入り、頭に取り付けたアクションカメラのライブ映像をネットで流すなどしたので、一部の親中派からは、若者をそそのかして立法会に突入させたのは彼ではないか、という疑いがかけられていました。

彼に直接話を聞いたところ、立法会突入事件の真相はおよそ、次のようなものでした。

福島:香港の立法会占拠の事件、一部で「あなたが指導した、煽動した」と言われていますが、実際はどうなんですか?

 :もちろん、事実ではありません。私に彼らを指導できる能力はありません。また、彼らもそれを望まない。私は明らかな公人です。もし私が、彼らの行動を指導したとしたら目立つし、そう報道されてしまうと、彼らの(議会に抵抗するという)行動の方向性とぶつかるでしょう? 私が彼らと一緒に立法会に入ったのは、彼らの安全を考えたからです。

メディアが、私と彼らがあたかも一緒に行動しているかのように編集したので、彼らはむしろ安全でなくなってしまった。これは偏向報道です。だから、私はあとでテレビ記者らに抗議をしました。テレビ側は、それを認めて訂正しました。

福島:立法会に入った目的は、突入した若者の安全を守るためだけですか?

 :目的は2つありました。1つは、デモの報道がとても偏向しているので、セルフメディア人として公平な報道をしようと思ったことです。実際、私の撮影したライブ映像を見て、当時の中の様子を正確に分かった人が多かったでしょう。

2つめは、デモ隊の安全を考えました。実はデモ隊が立法会突入後、あとを追ってたくさんの警官が入っていきました。最初に突入した彼らはそのことを知りません。出くわせば、不測の事態が起こらないとも限らない。突入した若者たちは、立法会の中の構造を知りませんし、袋小路に追い込まれかねない。それに、あの場所は私の職場ですから。

実際、私が入ると、ある男子学生が激しく泣いているのに出くわしました。近くにいる女の子に理由を聞くと「ここにいたくない」と訴えていたのです。つまり、彼らのなかには、突入したものの、激しく動揺して正常な判断ができない状況に陥ってしまった者もいたわけです。そこで私は、彼を落ち着かせて、女の子と一緒に出ていかせました。

別の場所では、一人の男子がガラス窓の近くに立ち、ぼんやりと下を眺めていて、まるで今にも飛び降りようとしているように見えたので、急いで彼をつかまえて「君、どうしたんだ」と尋ねました。彼は「何でもない」と言ってうずくまったあと、しばらくしてから立ち上がって、別の場所に行きました。

福島:あなた自身は、立法会での彼らの行動を暴力と思っていますか?

 :彼らの行動には、明らかにこれ以上やってはいけない、という一線が設けられていました。道徳的一線というべきものがありました。まず文化財を破壊しない。図書館の本とかね。また、食堂にある飲み物なども飲んでいたけれど、きちんとお金を置いていきました。公共物や彼らが文化として尊重しているモノは、破壊していませんでした。人の生命の安全を脅かすこともしていませんでした。

彼らはおそらく、権力の象徴である立法会という建物を破壊することで、彼らの不満と要求を表現したかったのだと思います。もちろん、これは破壊活動であるけれど、私は許容できる暴力、破壊だと思います。