野田クリスタルによる舞台を大きく使った壮大な展開に、村上が振り回されて困惑していくという、混沌とした漫才で注目を集めるマヂカルラブリー。『M-1グランプリ2017』で初めて決勝進出を果たし、翌年『キングオブコント2018』でも決勝進出した実力派コンビだ。野田は、今年開催されたピン芸頂上決戦『R-1ぐらんぷり2020』で見事優勝した。

決勝のネタで披露されたオリジナルゲーム「野田ゲー」は、野田自らが25歳から独学で会得したプログラミング技術を駆使したもので、独特な発想が光る内容にクリエイターとしての才能も感じられた。そんな野田が、ニンテンドーSwitchからゲームを出すことに。クラウドファンディングで資金を募ると、多くの賛同者が集まった。ピンとして、コンビとして、淡々と実直に独自のお笑いを地道に追求し続けている。

※本記事は『+act. ( プラスアクト )2020年11月号』(ワニブックス:刊)より、一部を抜粋編集したものです。

400万円に設定したら一瞬で集まって・・・

――野田ゲーのクラウドファンディング、1350万円強の支援金が集まりましたね。

野田 最初、何かやりませんかって、声をかけてもらった時に、ゲームを作りたいって言ったら通って。いくらかかるかを聞いたら、冗談みたいな金額を提示されて、クラファンしかないっていうことになったんです。で、最初は1000万円を目標額にしようとしてたんですけど、集まるかい!ってことで、最低必要な400万円に設定したら一瞬で集まって......ちょっと引いてます(笑)。

村上 凄いよね。もう野田氏がなんかやるって言ったら、いくらでも集まっちゃうんじゃない?

野田 なんでも集まる?村上も海外修業したいって言ったら集まるかもしれないよ。

村上 リターン品として、オフに頑張って観光した写真を付けてね?(笑) いや、本当になんでもできそうですよね。

野田 おもろリターン品になるように、会議でめちゃくちゃ話し合ったんですけど、話し過ぎて正解がわからなくなって。意味わかんないから誰も買わねぇかって思ってたのに、リターン品にめっちゃ注目が集まった。特にゲームに出られる権利が即効で売れたので、みんなゲームに興味があるんだなって思いましたね。

ただ、実際にゲーム1本作るとなると、クラファンで集まった以上の金が必要になるんです。例えばニンテンドー Switchにしか搭載されていない機能があるんですけど、それを使おうとしたらシステム構築だけで、クラファンで集まった以上の金がかかるって言われて。

村上 じゃあ、十字キーとAとBボタンしか使えないの?

野田 使えない。野田ゲーのクソみたいなのが詰め合わせになってるものしかできない。ボタンをせーの、バンっ!でどっちが早く押すかくらいのレベルじゃない?

村上 それ、80年代のゲームだね(笑)。

――(笑)。クリエイターとしての野田さんの活動を、村上さんは相方として、どう見てるんですか?

村上 大変そうだなとは思いますけど、楽屋でワイワイするような男ではなかったので合ってるのかな、と思いながら見てますね。野田氏が楽屋でゲーム作ってる時は、誰とも話さなくていいっていう空気に守られている感じがあるので。

野田 ふふふ、優勝した『R-1』でゲームのネタをしたっていうのも、許されるからっていうか。又吉(直樹)さんが芥川賞を獲ったことによって、楽屋で本を読んでいても許されるように、ほかの芸人からとやかく言われそうなことをやっていても、見逃してもらえるっていうところに乗っかりました。楽屋以外でゲームを作らないので。

村上 出番の合間にやってるもんね。

野田 そこでやるしかない。自宅に帰ったら筋トレしちゃうから。

――たしか筋トレも独学で始めたんですよね?

野田 そうですね。人に教わるのが大っ嫌いなので。

村上 でもなんか通ってなかった?演劇のやつに。

野田 コントをやろうと思った時に一度、演劇のレッスンに通ってたんです。けど、発声と滑舌が悪過ぎて1年間、発声しかやらせてもらえなくて辞めたっていう。あれがトラウマになってるのかもしれない。

村上 ずーっと“ういろう売り”〔発声、滑舌の練習法〕をやらされたんだっけ?(笑)。

野田 それが、ず―――っと憶えられなくて。訛りまくってるし、肺活量もないから、息も続かなくて全然できなかった。

村上 全体的に要領は悪そうだよね。筋トレもそうだけど。

野田 明らかに方向性は間違えてるとは思う。筋トレも最初に筋肉が大きくなるトレーニングをしておけばよかったのに、ジャンプ力を鍛えようとして紆余曲折しちゃって。結果、今みたいな形に収まってはいるんですけど、筋トレとしてはボディービルダー並みにやってるのに、これなので。

――地道に学び続けられるところが凄いですけどね。お笑いの部分でも、そういうところはありますか?

野田 お笑いは楽したがりなんで、なんでもさくっとやりますね。新ネタも、前日にこんなことやりたいって考えて、そのあとは(村上と)ネタ合わせしながら作っていくんです。細かいセリフは一切書かない。

村上 全部書いてくれるのが一番楽なのに、僕を楽させたくないみたいで、毎回呼ぶんですよ。

――野田さんは、ピン芸人だった時期もありますし『R-1』のように、ピンのネタを考えることもあるじゃないですか。ネタとして、コンビだからこその良さは、どんなところに感じますか。

野田 コンビのほうがネタを考えるのが楽というか、いくらでも考えられます。ピンはやれることが少ないし、考える幅も狭い感じはしますけどね。まぁ(題材を)提案した時、村上にゴールが見えてないのを感じたら、別のネタを提案するようにしてます。だから漫才では、村上を振り回してるけど、ネタで振り回しているわけではないです。

村上 こう言ってますけど「なんて言ったらいいの?」って聞くことは結構ありますよ。「どう言ってほしいの?どうしたらいいの?」って。

野田 最近、漫才も何事も、こじれてきちゃってるというか、ひとつのお題で5時間くらい考えたあとに出る答えとか考えちゃうんですよ(笑)。

村上 それやって、ヨシモト∞ホールであった大喜利ライブで、くそスベってたじゃん。ひどかったよね。お題はSiriがやったら嫌なこと、だったっけ。

野田 そう。で、俺が出した答えが“Siri”っておしゃれな感じで言う、っていうのだったんですけど、5時間くらい経ったら面白くなるじゃん、そういうのって。

村上 っていうか、5時間やって、なんの考えもない時の答えじゃん、それ。5時間の果てに終わらせようとした答えじゃない。4時間40分くらいの感じでしょ?

野田 そう(笑)。そういうのが楽しくなってきて、言ってしまえば最初の普通にやるべきボケができなくなってきてるんですよ」


マヂカルラブリーさんへのインタビュー記事は、10月12日発売の『+act. (プラスアクト) 2020年11月号』に全文掲載されています。

野田クリスタル【野田ゲー】(YouTubeチャンネル)