化石となった生物は悲劇的な死を遂げた可能性が高い

▲化石となった生物は悲劇的な死を遂げた可能性が高い イメージ:PIXTA

生物の遺骸が化石となるには、さまざまな条件をクリアする必要がある。

第一に、死後、可能な限り早い段階で、地中に埋もれる必要がある。もしも、長期間にわたって遺骸が地表に放置されていた場合、たとえば、それが動物のものなら、肉食動物にとっての格好の食料だ。遺骸は食い散らかされ、踏み潰され、破壊されてしまう。水中においても同じであり、水底に放置される遺骸は魚たちに荒らされる。

とくに陸では、仮に肉食動物に見つからなかったとしても、風雨が容赦なく遺骸を壊す。肉食動物や風雨から“遺骸を保護する”ためにも、速やかに地中に埋もれなければならない。

「速やかに地中に埋もれる」場合とは、どのような状況なのだろうか? 寿命を迎えての大往生では、ダメだ。肉食動物の格好の獲物である。

たとえば、洪水に襲われた。
たとえば、崖が崩れた。
たとえば、砂嵐に巻き込まれた。
水中ならば、たとえば、酸素ゼロの水の塊に襲われた。

……そういった、“非日常の出来事”があると、生物は急死したうえに、すぐに埋没
する。言い換えるならば、保存の良い化石ほど「悲劇的な死」である可能性が高いのだ。

また、地中に埋没した化石も、すべてが同じように保存されるわけではない。

たとえば、大型の生物ほど全身は化石に残りにくく、小型であればあるほど全身が化石に残りやすい。全長30メートル超の巨大恐竜や、樹高数十メートルという巨木の化石は、実は部分的な化石しか残されていないことが常である。一方で、たとえば、顕微鏡サイズの化石は、ほぼ全身がまるごと残されている。

大きなものは、地中に埋もれるためにかかる時間も長く、地中に埋もれても、地層のずれや、変形の影響を受けやすいのである。

そして、肉や内臓といった軟組織よりも、骨や殻といった硬組織の方が化石として残りやすい。軟組織は、地中にあってもさまざまな小動物や微生物によって食べられて、分解してしまうからだ。

「不完全なもの」を研究する意義

こうしたさまざまな”フィルター”が、化石ができるまでにかかる。そのため、化石を研究する古生物学においては「化石はそもそも不完全なもの」という前提条件から、スタートしなければいけない。

化石の多くは、非日常で異常なのだ。

このように書くと「そんな不完全でイレギュラーなものを研究する意義はあるのか」と問われることもあるかもしれない。実際、筆者はかつて、そう問われたことがある。

結論からいえば、もちろん意義はある。

化石を研究するということは、生命史に「窓を開ける」ことなのだ。私たちは、この窓を通してしか、生命史を見ることはできない。窓から見える景色が、世界のすべてではないけれども、窓を開けなければ何も見えない。

だからこそ、不完全で異常であることを前提としたうえで、さまざまな知識を投入し、推理し、裏付けをして、研究を進めていくのである。

▲「不完全なもの」を研究する意味 イメージ:PIXTA