歯は1本100万円でも高くない
「前歯を6本治療するのに50万円かかった」
「全部治すのに200万円以上かかった」
といった話をチラホラ耳にします。
「それだけのお金を払っているのだから、一生使えるに違いない」。そう思って大金を支払い、その処置を受けている方も少なからずいると思います。しかし本当に、それで一生トラブルなく過ごせるのなら安いものと感じます。
悪くなった歯は、決して治ることはありません。いくらお金を出しても、虫歯菌に侵された歯は元に戻ってくれませんし、歯周病でグラグラ揺れてきた歯も元に戻すことはできません。
いくら大金を使ってかぶせた歯でも、神経のない歯においては、歯と修復物の境目から虫歯になることもあり、細菌感染を起こすこともあり、根っこ部分が腐食したり割れたりすることもあります。
また、歳とともに顎骨や歯肉がやせてくるので、歯と歯の隙間が拡がって、食物がつまりやすくなります。当初なんとも感じなかった歯が、歯周病によって揺れてくる。こうしたことが起こってくると、抜歯せざるをえなくなります。
一度処置した歯が、一生そのままでいられるほうが逆に少ないのです。
「歯の神経を取ってしまえば決して痛くならない、金属かセラミックでかぶせたら歯は永遠に使える」と思っている人がいれば、それは大きな勘違いです。そうせざるをえなかったからそうしただけであって、できるなら削らないほうが良いし、神経も取らずに済めばそれにこしたことはありません。
「歯科治療は高くつくものです」と言いたいのではありません。「いくらお金をかけても治らないものは治らない」と考えていただきたいのです。
極端な話「1本の歯につき100万円出せば一生保証します」と言われた場合、あなたは高いと感じるか、安いと感じるか、どちらでしょう。
とんでもなく高いと感じる方が多いのかもしれませんが、多くの歯科医師は、健康な歯にはそれ以上の価値があると考えています。仮に1本100万円とすれば、成人の歯は親知らずを除けば28本ですから、しめて2800万円です。
生えてきたときには、虫歯も歯周病もなかったはずですから、この財産を神様からタダでもらって成長してきたはずです(誰も買ってくれはしないのですが……)。
多くの人はその価値に気づかずに、不適切な歯磨き・生活習慣の過程で、この財産を放出しているのです。歯は減ることはあっても増えることは決してない貴重な財産と考えて、これを守る意識を継続して高めていただきたいものです。
今のところ、いくらお金を出しても、失った歯を買い戻すことはできません。タダで与えられているとはいえ、こんなに不思議でこんなに神秘的なあなたの高価な歯について、あなたはどのように扱いますか?
そう考えたら歯だけではありません。身体を構成する臓器は、すべて神様からタダで与えられたものです。なかには、生まれつき歯の数が足りない人もいます。手足のない人もいます。それぞれの臓器は足りていても、少し標準とは異なる形態や機能を有する場合もあります。
みんな、それぞれに必要なものを神様が与えてくれているはずです。歯を含めて、神様から与えられたこの身体! 感謝しながら、ていねいに使っていきたいものです。