新しい環境でいきなり結果を出そうとするな
自身も19歳でプロ入りしたときには「怖かった」と振り返る。
「22年前。鹿児島工業高校では県大会2回戦で負けて。誰が僕に目をつける? 運がよかった。運しかなかったよ。ダイエー(当時)に来てみたら『誰や、お前』ってなる。周りは甲子園のスターばかりだから。プロの練習も、右も左さえもわからなかった」
その経験があるからか、川﨑さんは新しい環境では、まず「そこに慣れる」ことを大切にしてきた。新人(ルーキー)にも、それを勧める。
「新しい環境でいきなり仕事しようなんて、そりゃ無理よ。まずは生活のリズムを作らないと。何時に起きて、何時に会社に行って、昼飯を食べて、帰る。そういうリズムに慣れることが一番大事なの。会社の人だって、いきなり仕事を頑張ってもらおうなんて思ってない。まずは、こういう人がいるとか、環境に慣れること。生活のリズムをつかむための1年目なんです」
慣れてきて、ようやく自分で時間を見つけられる。それから自分のための練習や好きなことができるようになる、というのが川﨑さんの考え方だ。「環境を知らないことには身体を壊す。それが大きなケガにつながる」という。
「ゆっくりね。1年目はやっぱ環境。2年目は人間関係。同僚や先輩、この人は何が好き、社長はどんな人。ゴルフが好き、お酒が好きだと分かってくるのが、2年目。3年目に、いよいよ仕事に向き合ってみようかってなる」
自分の「ストロングポイント」を作って売り出せ
栃木ゴールデンブレーブスでも、川﨑さんは若い選手にそんな話をしているという。
「19歳の選手が4~5人いるんですよ。ルーキーの子たちが。彼らと接することがあると、そういう話をしますよ。『どうやプロは?』と。毎朝9時から練習。それがずーっと毎日。体がもう、自分の体じゃないような感覚になってくる。だけど、いいんだよと。まずは寝ることとメシを食うこと。これだけ。野球のことで悩まなくていい。一応練習があるから、そこにいればいい。今はただただ寝て、メシを食う。願わくば次の日もグラウンドに来てくれ。この感じでいきなさいって」
川﨑さんはいう。「ルーキーが入ってきた。そのルーキーは仕事ができません。じゃあ、その球団とか会社が潰れますかって話なんですよ。潰れない。先輩たちは仕事とはこういうものだ!ってことをつかんでいる。だから仕事ができる。会社に貢献できるようになってくる」。
会社員として働いた経験がないはずの川﨑さんが、なぜこうした感覚を身につけることができたのだろうか。それは子どもの頃、実家の「川﨑電気工事」に、毎日いろんな業者がやってきて、一緒に食卓を囲んだ影響が大きいという。「その人たちの話を聞くのが好きだったんだよね」。
「鹿児島出身だからお酒も好きだし、お酒がなくても人とワイワイやる会が大好き。そこで、いろんな職業の人と話をしていると、なぜか野球がつながるんだよね。野球はこういうスポーツ、電気屋はこんな仕事。まったく違うのに、つながるの。これがわかるようになると、野球が面白くなってくる。
時には野球の技術的なことまでひらめく。だから野球選手には、野球選手だけでつるむなって言ってるの。野球選手と野球の話をしてもひらめかないからね。違う職業の人と話をしていると、それが野球とは関係のない話題だったりするのに、どこかつながって降ってくるんだよ。(上から)パアァァァン!って。ああ、こうなんだ!って。ひらめくんだよね」
最後に川﨑さんは、自分だけの「ストロングポイント」を作ることの大切さに触れた。これは、厳しいプロの世界に生きるトップアスリートだけでなく、会社が終身雇用を約束してくれなくなった現代のビジネスマンにも響く。胸に刻みたい。
「自分を信じてオリジナルのもの、ストロングポイントを作っていけ。それを見つけたら、売り出せ。そしたら使ってくれる。給料にはね返ってくる。だけど、ずっと野球選手と一緒にいたらストロングポイントを見いだせない。それが僕の考え方なんです」
〇川﨑宗則インタビュー前編
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