ロックダウンで“見えた”楽な人と苦しい人の格差

最初にロックダウンがスタートした時には、一日一度の散歩と買い物しか許されておらず、その散歩を楽しみにしていた。家々から見える人の営みを見るのが好きだったが、次第に地域によって流れる空気が違うことに気がついた。

安定した収入があり、庭付きの一戸建てに住む人たちは窓辺でコンピューターに向かい、天気が良ければ庭にテーブルを出して仕事をする人もいる。子どもたちを広い隣接した地区の公園で遊ばせ、週末にはビーチや山にドライブに出かける。不自由なりになんとか気持ちよく過ごす工夫をしているのが見て取れる。

▲エディンバラの高級住宅地。庭付きの一軒家でのロックダウンは優雅にさえ見える

それが、アパートが密接している地区に行くと、その様相がガラリと変わる。まだマスクもなかった頃には人ごみを避けるのに四苦八苦し、イライラする様子が手に取るようにわかる。

保育園が閉まっているため複数の子どもを連れて買い物をするお母さん、大量にトイレットペーパーを抱えて歩く中年の男性。コロナが蔓延する中でも仕事に駆り出される人たち、失業し先が見えない人たちが多い地区だ。

▲市内の集合住宅。多くの庶民が生活に不安を抱えている

観光客で賑わう「ロイヤルマイル」から人が消えた 

そして最も衝撃的だったのは、一年中観光客で賑わうエディンバラのメインの観光通り「ロイヤルマイル」から人が消えたことだった。夏には世界最大のフェスティバルが開催され、街全体がお祭りムードに包まれる。冬にはクリスマスや新年の催しで、途切れることなく世界中から人が訪れる。

エディンバラ最大の観光の目玉はオールドタウンと呼ばれる、エディンバラ城から女王のスコットランドの公邸であるホリルード宮殿まで続く中世の街並みだ。普段は目抜き通りのロイヤルマイルはカフェやレストラン、土産物屋が軒を並べ、世界中からの観光客であふれている。

それがまるでゴーストタウンのように静まり返っている。そのシュールな光景に愕然とした。いくつかの店には早々と「貸店舗」の看板が出ている。業績がすでに悪化していたビジネスは、最後の一撃を喰らった形で倒産に追い込まれ、観光に依存していた店舗、ネット販売のない店舗は次々に閉店してしまっていた。

Airbnb(民泊施設)に使われるアパートも多い地域だが、恐らく今は借りる人は誰もおらず、持ち主の収入は泡のように消えた。なかには命を絶った事業主もいるという哀しい噂まで流れている。

▲閉店した市内のパブ。店主が急死し、店のファンによる追悼メッセージや花束が添えられている。死因は明かされていない

もう一つの世界遺産地区ニュータウンは、また様相が違っている。もともと富裕層のために建設された18世紀の街並みには、今は洒落た店が並び地域住民はいつものように目抜き通りの店舗で買い物をし、カフェでお茶を飲み、限られた開店時間を狙って友人らと食事を楽しむ……違うのは、マスク着用・入場者数限定・予約制導入・消毒液の使用義務。以前と違い、ふらりと街歩きをしたり、店やギャラリーには入れない。

それでもまだ多くのビジネスが、地元のファンに支えられて生き残りをかけている。ニュータウンは、もともとエディンバラの裕福な層のために建てられた街だ。レストランが閉鎖され旅行にも行けない時期ですら、外にテーブルを出してワインを飲み、静けさを楽しむお洒落な人々の姿があちこちに見られた。

全て死に絶えたようだったオールドタウンとは対照的に、富裕層の暮らしには即座に影響はないのだ。