新型コロナウイルスが街から奪ったもの
夏頃まで徐々に状況が改善したものの、ロックダウンの解除とともにまた感染状況は緩やかに悪化してきた。収束の目処がつかない状況下で、ファーラウ(公的扶助を得ての休職)から解雇される人たちが次々と出てきた。ホームレスや低所得者の支援をしている友人は「これまで以上に、フードバンクに食べ物を求める人が増えてきた。」という。
私の友人・ジュスティナはフラフープのパフォーマーで、普段ならヨーロッパ中を駆け回っているのだが、今年はその仕事が殆ど消え失せてしまい、今は公的援助に頼っている。
アーティストや音楽家も今年はイベントが全て中止になり、生活をガラリと変えざるを得なくなった。残酷なことにCOVID-19は、エディンバラの観光地や街としての魅力を支えてきた人たちに、最も大きな影響を与えている。
8月半ばから、スコットランドでは公立学校が再開した。夏季休暇を含めれば5ヶ月も閉鎖していたことになり、日本と比べてずいぶん長かったと言えるだろう。
閉鎖している間にレイアウトが変えられ、ハンドサニタイザー(除菌液)があちこちに設置された。一方通行や教室内でのマスク着用など、感染防止のためのルールが制定され各家庭に告知された。
仕事に戻ることができて安堵した親、子供の感染に不安を感じる親、勉強の遅れを取り戻せる事を喜ぶ親……反応はまちまちだ。大人の事情とは関係なく、ほとんどの子どもたちが友人や慣れ親しんだ教師たちに会えることを嬉しく思っているように見える。静まり返っていた通りに、子どもたちの賑やかな声が戻ってきた。
暗さと寒さが近づくなか人々が虹に込めた祈り
10月からは大学が再開し、ほとんどの授業がリモートで行われるにも関わらず、多くの学生たちがエディンバラ市内の寮やアパートに戻ってきた。若者の間での集団感染と隣り合わせではあるが、街には徐々に活気が感じられるようになった。
陽性になった児童・生徒・学生に濃厚接触のあった者は、即座に休校措置になるし、多くの校外活動がまだ休止状態のままだ。症状が出にくい子どもたちや若者たちがスプレッダー(感染源)になっているという批判もある。また学校や地域によって、感染防護を忠実に守っているケースとそうでないケースがある。
私の子どもの学校では2件発生例があり、濃厚接触で休校した児童もごく少数だが、お隣のグラスゴーでは常時数割の児童生徒が濃厚接触で休校になっている学校もあるという。
地域差はあるが、コロナ対策が長期になればなるほど、学校外で禁じられている自宅でのパーティやお泊り会など、無邪気なルール違反の行為が見られるようになった。[参考:https://www.bbc.co.uk/news/uk-scotland-glasgow-west-55005077]
全てが元どおりになるには時間がかかるが、政府の方針は感染のバランスをとりつつ教育機関は可能な限り開けていく方針だ。
多くの人たちが恐れていたように、冬に向かうにつれ感染者数や死亡者数が上昇、現在は段階的ロックダウンが導入され、居住地区から外へ出ることも、自宅に人を招くことも、2家族6人以上が外で会うことも許されなくなった。
誰もがそれぞれに生き方の微調整を余儀なくされるなか、社会全体が以前と比べてぎくしゃくし、欲求不満や他者への無理解が少しずつ吹き出してきているようにも思う。
人と交わりたいという、人として当たり前の感情が否定されているように感じる人もいれば、ルールを守ることよりも自分の欲求を優先しているように見える人たちに苛立ちを抑えられない人もいる。
私自身も、誘われて友人に会いに行ったら実は大人数の集まりだったことを知り、相手への苛立ちや不信感が抑えられなくなったことがあった。
しかし、ある独身の友人は「浅はかだって言うけど、あなたは仕事があって、パートナーも子どももいるからロックダウンが辛くないの。私を見て。家に一人きりで仕事もなくなった。ルールを守って生きてたら、コロナになる前に一人ぼっちで鬱になってしまうわよ」と言った。
私は返す言葉もなかった。一人一人の資質の違いさえ責められる空気が、徐々に各々の人生にのしかかってくる。
〇BBC NEWS(https://www.bbc.com/news/uk-england-51988671)
そんな中、日本におけるアマビエのように英国中に拡がったのが「虹」だった。希望を象徴する虹を窓に貼り、医療従事者の無事と、みんなの健康に思いを寄せる。
ドローイングや編み物など、さまざまな虹が家々の窓に現れた。夏に向かっていた最初のロックダウンと違い、今回は刻一刻と日が短くなり、寒さと暗さが迫ってくる。この冬をなんとか生き延びたいと言う願いが、虹に込められているのかもしれない。
1994年武蔵野美術大学短期大学部美術科卒業、2002年ロンドン芸術大学MA修士課程修了。ポーラアートファウンデーション海外研修を経て、2003年にイギリス移住。現在はスコットランドのエディンバラ在住。2009年より芸能情報、翻訳記事の執筆と同時に現地企業勤務。