中止という選択肢も可能性として考えるべき

東京大会の実施については、開会式の簡素化などが不可避であるのは当然として、わたしは中止も含めた選択肢も、可能性として考えていく必要はあると考えています。

ワクチンや特効薬が今すぐ開発されれば可能かもしれませんが、ワクチンの開発には通常、1年半かそれ以上かかります。ご承知のとおり、SARSやMERSは、結局ワクチンが開発できませんでした。

今年の春ごろ、イギリスやベルギー、ロンドン、WHO本部のあるジュネーブ、東京などをZoomで結び、世界の感染症や危機管理の専門家が集まったWEB会議が行われました。実は私もこれに参加していたのですが、研究者たちからは「当面は既存の薬を使うしか方法はない」「患者によって薬効はまちまちである」などの悲観的な声が上がっていました。

それから半年以上が経過した今、ワクチンの開発は比較的順調との報告もあるようですが、現実問題として世界77億人の民に行き渡るのがいつになるのか。少なくとも、夏までというのは難しいと考えるのが普通でしょう。

世界を見ても、英国が11月に再びロックダウンに踏み切りました。また、これまで「コロナの優等生」とされてきたドイツでも、やはり11月に入って部分的なロックダウンを導入し、メルケル首相は少なくとも、12月20日までロックダウンを続けるとの方針を示しています。欧州を覆う感染の第2波が、ここへきて急速に拡大しているのはご承知のとおりです。

五輪というのは、はっきり言ってしまえば欧州の文化です。欧州の国が参加できなければ、五輪は成立しないのです。

▲今の都知事を誕生させたツケは必ず返ってくると話す舛添氏

今の都知事を誕生させたツケは必ず返ってくる

私が今の東京を見ていて絶望的になるのは「21世紀は国家ではなく、都市の世紀である」という考えがあるからです。国と国ではなく、都市と都市の競争が重要な視点になってきているのです。実際に東京は、ロンドンやニューヨーク、パリなど世界の大都市とさまざまな分野で競争しています。

このコロナ渦でも、たとえば感染確認者数がもっとも多いアメリカでは、当初は爆発的に感染が拡大していたニューヨーク州が、徐々に抑え込みに成果を出しはじめ、一方でカリフォルニアやテキサスで感染者が増えるという流れがありました。国単位ではなく、都市レベルで明確なビジョンを保有し、そのうえでの正しい対応や判断が求められるのです。

人やモノ、情報が国境というボーダーを越えて自由に移動する時代には、企業も人も、国や都市を自由に選ぶことになります。多くのグローバル企業がアジアに拠点を置く際、選ばれる都市が東京ではなく、シンガポールであることは残念なことですが、これが現実なのです。

「アジアの金融都市といえば東京」と世界が認めるようになるまで、長期的なビジョンを持ってハードやソフトを改善していかねばなりません。そのための東京のリーダーが、実は自分の人気にしか関心がないということでは、都民にとってまさに悲劇という以外ありません。

いずれにせよ、その小池都知事を誕生させたのはポピュリズムであり、そのツケは確実に都民に返ってきています。決しておおげさでなく、東京がこのまま沈没しないために都民は今、何をすればよいのか。危機感をもって考えるべきときにきているでしょう。