私たちのまわりには、小麦粉からつくられた食品があふれています。小麦粉食品は安価で、手軽に食べられて便利です。そのため、現代型の食生活に深く入り込んでいます。しかし、腸のことを思うならば、できる限り控えたほうがよいようです。腸内細菌研究・感染免疫学の第一人者である藤田紘一郎博士に、いま気になる「新型コロナウイルス」や「過敏性腸症候群」に有効な食事術について聞きました。
※本記事は、藤田紘一郎:著『腸内細菌博士が教える 免疫力が上がる食事術』(ワニ・プラス:刊)より一部を抜粋編集したものです。
新型コロナ重症化の予防にビタミンDが大事
最近の研究では、ヨーロッパ20カ国で、血液中のビタミンDの値が低いと、新型コロナウイルスの感染率と死亡率が高いという報告がされました。とくにスペイン・イタリア・スイスの高齢者に、この傾向が強く見られたということです。
さらに、新型コロナウイルス感染の治療後の経過がよくない人に、ビタミンDの血中量の少なさが見られたとのことです。こうした報告を受け、ヨーロッパの公的機関ではビタミンDの摂取をすすめる動きが見られるようになってきました。
ビタミンDが新型コロナを抑える働きについては、今後のさらなる研究が待たれるところですが、免疫賦活作用・抗ウイルス作用・抗炎症作用を有していることがわかってきています。そのため、ビタミンDは、新型コロナだけでなく、風邪やインフルエンザ、肺炎などの悪化を防ぐ効果も期待できるということです。
このビタミンの大きな特徴の一つは、人間が自分の体内でつくり出せる、ということにあります。紫外線に当たることで、皮膚でコレステロールを原料につくられます。
なお、広島大学の研究では、波長が222メートルの紫外線に、新型コロナウイルスを不活生化する効果が見つかったと報告されました。これは紫外線照射装置を使った実験結果ですが、さらなる研究によって、人が日光を浴びることによる予防効果などもわかってくるかもしれません。
最近は、紫外線の害が強く問われ、日光を浴びることを極端に避ける人たちも多くなっています。しかし、免疫力を強化し、新型コロナ感染を予防するには、一日に20分ほど外に出る習慣を持つことも大事でしょう。
ただ、高齢になると、皮膚でのビタミンDの合成能力が落ちてしまいます。暑い盛りに外に出れば、熱中症の心配も出てくるでしょう。ですから、ビタミンDは食事から得ることも考えていきましょう。
ビタミンDは、魚やキノコ類に多く含まれています。魚では鮭・イワシ・サンマ・カレイ・ブリ・しらす干しなど、キノコ類ではキクラゲ・マイタケ・エリンギ・シメジなど。シイタケは天日干しにすると含有量を増やせます。
小麦粉のとりすぎが腸の健康を悪くする
過敏性腸症候群など腸の不調に悩む人が多くなっています。その背景には、小麦粉のとりすぎがあると私は考えています。
問題となるのは、小麦粉に含まれる「グルテン」というたんぱく質です。グルテンは、パンをふわふわにしたり、麺をもちもちにしたりする物質です。そうしたおいしさをつくり出すために品種改良が進み、現在の小麦には昔のものより約40倍ものグルテンが含まれているとされます。
そのグルテンには「グリアジン」という、たんぱく質が含まれます。グリアジンには、小腸のなかで「ゾヌリン」という物質を放出させる働きがあります。このゾヌリンの濃度が高くなると、小腸の上皮細胞の結合部分(タイト・ジャンクション)がゆるみ、細胞と細胞の間にすき間が開きやすくなるのです。
このすき間は、内視鏡などを使っても見ることのできない微小なものです。しかし、未消化のたんぱく質を通すことがあります。通常、たんぱく質はアミノ酸に分解されてから吸収されるのに、消化が十分でないまま、血液中に入り込んでしまうのです。食品のたんぱく質が血液中に入り込むと、免疫に異物と判断され、攻撃対象になります。これが食物アレルギーの原因になってくることもわかっています。
また、腸内細菌や腸のなかの腐敗物質などを通過させる可能性も高くなります。これらも、腸を抜け出して血液中に入り込めば、免疫の攻撃を受けることになります。このように、腸の細胞の結合がゆるんで、腸からさまざまなものがもれ出しやすくなっている状態を、私は「腸もれ」と呼んでいます。
細胞間のすき間は小さなものですから、もれ出すのは少しずつです。ただ、そこをふさがない限り、じわじわともれ続けます。免疫はその異物の対応に追われ、いざ病原体が侵入してきたときに十分な力を注げなくなります。
しかも、免疫が働けば、そこで炎症が生じます。腸もれが起こっている限り、じわじわと炎症が慢性的に続いて、細胞の劣化を起こしていきます。これが老化と病気の発症にかかわってくるのです。こうしたことを防ぐには、小麦粉のとりすぎを改める必要があります。